胃袋を掴む
 同居人の通夜と告別式を終えた。
 いまどき珍しく、焼香客の多いこと。俺の知らないところでも愛されていたようで、嬉しい半面ちょっと悔しい気持ちにもなった。
 同居人がいなくなったため、折半で住んでいた部屋を引き払い、一人用の新居へ引っ越す。バタバタとしていたのが落ち着いたので、カレーでも作ろうかと思い立った。
 カレーは同居人の十八番であった。カレーだけは、暗黙の了解で同居人が作っていたのだ。昼頃に作り始め、夕方には作り上げて寝かせていた。そしてカレーが出る日は大抵、自分が残業のときか、夕食当番の日に疲れてなにも手につかないときだった。
 パッケージ裏の説明を読みながら、鍋をの中身をかき回す。うっかり多めに作ってしまったが、まあ三食カレーになるだけだ。よくあること。
「いただきます」
 うん、と思う。普通のカレーの味だった。市販のルウで作った、よくある味だ。同居人も市販のルウで作っていたはずだが……と思いながら、また一口。
 どうあがいてもあの味ではなかった。
 あまりにしょっぱいのだ。スプーンが進まない。
 初めてカレーを残した。


2018/12/16


▼CLOSE
動作確認:Windows7(Chrome)