スワンプマンは二度死ぬ
 刀剣破壊を御守りで回避した男士は、スワンプマンと似ているのではないか。

 「どうだと思う?」と主が言うので、俺は少し考えてから「さてね」と返した。
「それに、厳密に言えばちょっと違くないか」
 沼男の死体は誰にも知られることなく葬り去られたが、刀剣破壊から復活した刀剣男士は折れた刀から復活しているのだから。ザオリクと同じだ。
「たしかに」
 主は神妙に頷いた。
「沼男と呼ぶなら、未顕現の刀たちじゃないかね」
 俺は言う。本丸での記憶や経験がない刀たちは、見目形も来歴もまるきり同じ。途中でトレードされたって、人間は何も気づきやしない。主は黒々とした瞳をぱちくりとさせた。
「ああ、うーん。なるほど」しばし沈黙して、「受け取り箱も整理しなくちゃな」
 そうぼやくのを聞いて、思わず笑ってしまう。
「そんなに未顕現刀がいたのか」
「数えてないけどね」
 ふふふ、と主が笑った。
「政府の通達があったでしょう、連隊戦。それまでに片付けておかないと、と思ってね」
 言って背を向けた主は、執務に使う文机を漁る。俺はその様子を、まじまじと観察していた。
 ばさばさと書類を整理しながら目的の紙を探り当てたらしい主は、くるりと振り向きざまに概要の紙を突き出した。
 連隊戦。
 一定のノルマ達成で、褒美として政府から北谷菜切がもらえるという。
「通常入手はできないから、覚えておいた方がいいよ。密偵くん」
 主の手から、するりと紙が滑り落ちた向こう側、――清めの札。
「大将ッ!!」
 極めた鎧通しの鋭い声が飛ぶと同時、目の前の人間に額へ掌底を喰らわすように札を張られた。直後、がぎゅ、とえもいわれぬ音を立てて、喉が畳へ縫い付けられる。
「無事か!」
「平気」
「ひやっとしたぜ」
 わあわあ言いあう主従を目の前に、俺の喉は血と息を垂れ流す。
「スワンプマン。きみの雷は、いったいいつ落ちたんだい?」
 目の前にしゃがみこんだ主が言う。
「そりゃ、俺が折れたときだろ」
 極めた鎧通しが返した。
「そのときに拾ったんだから」
「ああ、そうだったね」
 主は微笑んで、ゆったりとその場を離れた。文机の上を漁って、こちらを振り向いて、にこり。
 端末で俺の写真を撮影してから別のパネルを操作し、それから主が口を開いた。
「ねえスワンプマン。あの刀に成り代わろうったって、そうはいかないよ」
 俺の体から異形の骨が飛び出して、元の形へと戻ろうとする。主が、ただの人間になっていく。

「彼は、御守りを持っていなかったのだから」


【通達:警告】
 時間遡行軍が刀剣男士に成り代わる事案が発生。刀剣男士が破壊されたあと、当該の刀剣男士が蘇ったように見せるという手法で隊に戻り、帰還。本丸に潜り込む。
 御守りを持たせている隊ほど、厳重に注意するべし。

 ――なお、成り代わった刀剣男士が、なぜ本丸の記憶や経験を保持しているかは不明。


2019/08/02 Twitterにて掲載
2019/08/04 改変・追加して当サイトへ掲載


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