偶の傷にて死に至る
 ある夏の日。鶴丸国永は木陰に穴を掘った。
 掘り進めた土の中はヒンヤリしてて、なるほど涼しいものだ。尻が汚れないようにと持ってきた新聞紙と木の板を底に敷いて、しっとりと涼を得る。
 フと。掘った土の断面から、虫の脚が見えていた。カブトムシ。掘った断面に沿って、カブトムシの断面も見えていた。

 スコップで両断してしまったらしい。
「ごめん」
 思わず溢れていた。
「いや、本当にすまない。気づかなかったんだ」
 そこでなぜか、昨日の喧嘩を思い出した。
 鶯丸との喧嘩だ。きっかけはなんだったか。はっきりとは思い出せない。鶯丸が、うっかり俺のものを使ってしまったとか、そんな、今すぐに思いつかないほど些細なことだった気がする。

 そう、怒鳴ったのだ。俺は。
 自分にしては珍しく、わあわあと喚いて、睨みつけた。鶯丸は、終始悲しそうに、優しく微笑んでいた。そして、
「すまない」
 と。思わず溢れたように。

 カブトムシを引き抜いて、穴の底へ座り込む俺の隣へ埋葬した。パンパン、と二拍手してナムナムしておく。
 心の奥が、寂寞としている。
 ああ、と思った。悲しいのだ。悲しいが、表立って悲しくする資格などないのだろうなあと思う。
 あとはただ――優しくしてやるだけだ。


えふさんの鶯鶴は、悲しげに笑う鶯丸×怒った鶴丸です。
#日替わり鶯鶴
shindanmaker.com/780554


2018/08/05 Twitterにてアップ
2018/09/28 修正・改稿


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