「こんな夢を見た」
 戦さ上手の白装束が、そろそろだなと云うので、俺はゆるりとうなづいた。
「刀解されて、また永く眠ることになる」
 言えば彼はウムムと唸って、退屈なもんだぜ、と溜め息を吐いた。存在が消えるというのに悲壮感はなく、むしろ日常の延長みたいに思っているようだった。

 かくいう自分もその実感はなく、刀解という事実を片手に乗っけているくらいの気分であった。
 でも――しかし、確実に。
 明日になれば、お互いはお互いを認識できなくなる。語ることもできなければ、刀を交わすこともできない。それはしっかりと感じていた。

「明日は夕暮れを見れないのか」
 こぼせば、白色はククッと喉の奥で笑った。夕飯も食えなきゃ、消灯の鐘だって聞けないぜ。からかうような声音だった。
 そこでやっと、刀解の事実が背へ忍び寄っているのを感じた。なんとはなしに腕をさすり、ちらと白装束を見やった。

 彼は言う。
「俺のことをずっと考えててくれ」
 なぜ。そう問えば、想いは信仰に似るからと返ってきた。信仰。信ずる心。神への――
「そういう側面を持ち得る俺たちだからこそ、できる芸当だぜ」
 いたずら大成功とでも云うように、ニンマリと笑った。結果なんて分かりやしないのに。

 来たる当日。
 木炭と、砥石と、玉鋼と、冷却材とに果てた。

 日もまだ昇りきらない頃に目が覚めた。あまりにも迫真の夢に、じとりと汗をかいていた。ベッドから降りて、ぺたりとフローリングに足を着けば、足の裏がひやりとした。
 同居人は何をしているだろうか、とぽやぽやする頭で考えながら、リビングへ向かった。

「おはよう、鶴丸」
 寝起きで揺らめく声で、キッチンにいる影へ告げる。今日も彼は、白を好んで着ている。ククッと喉の奥で笑う声がして。

「おそようさん、鶯丸」

 お前はもう、目覚めていたんだな。


2018/09/17 Twitterにてアップ
2018/09/28 修正・改稿


▼CLOSE
動作確認:Windows7(Chrome)