一旦指示を仰ぐ

見失った以上、この歓楽街で闇雲に探すのは得策ではないだろう。
瞭ちゃんには怒られちゃうかもしれないけど、無駄に時間を過ごすよりはマシだと思う、多分。
端末を出して瞭へ連絡を取る。

「……あ、ごめん瞭ちゃ――」
『おい黙、生きているのか?生きているなら早くこちらへ戻ってこい!』
「え?あの、仙月が……」
『大方もうそこには居らぬのだろ?もう追わなくていい』
「そうなの?」
『ああ。先生が待っている。早くこちらへ戻ってくるように』
「了解」



できる限り急いで『花好月円』へ戻る。
戻り次第先生……オーナーに取り次ぐようにとの事だったので、急ぎエレベーターで最上階を目指すが、足取りは少し重い。
(ううん……怒られるかなぁ……ターゲット見逃してるし……時間かかってるし……なんて言えば……)
言い訳を考えているだけで気がついたらエレベーターは止まっている。何も思いつかなかった。
長い廊下を歩いて社長室へ急ぐと、入口にはジャオチォンがいた。声をかける。

「お疲れ様」
「シー、無事で良かった」
「先生が中で待っている」
「うん、ありがとう、今どんな状況?」
「それは中で聞いてください。……オーナー、黙が戻りました」

目で合図され、目の前の重いドアをノックして入室する。中にはオーナーと瞭が既に居た。
オーナーはいつものように黄金色のネクタイを締めていて、穏やかに微笑んでいる。

「黙、ここに」
「お疲れ様」
「無事だったか」
「……申し訳ありません、追走中にターゲットを見失ってしまい……」
「それは気にしなくていいよ。まさか『絶』持ちとは思わなかったし、仕方ないよ。今回とは別件だしね」
「そうなんです?でも、龍胆紫が入り込んでいるって……」
「うん。それが本題ね。うちに入ってた龍胆紫の子は槐黄に変装して大胆にもカジノで『夜来香』を配っていたよ」
「え!?」
「騒ぐな。該当の人物は既に処分したから安心しろ。ロビーに金を積んでいたみたいでな」
「彼らも申し訳ないが対処はさせてもらった。うん、やっぱ外部に頼むのはダメだねぇ」
セキュリティ見直さなきゃとオーナーはのほほんと呟いている。
処分。対処……、彼らはおそらくもうここにはいないのだろう。
どういう処分になったかは聞かない方が懸命か。
「叫が全てのスタッフの顔を覚えていて良かった」
「流石だね」
「え?待って?そうすると仙月は?」
「奴は完全に無関係とは言い難いが、今回の件では関係はないようだ」
「瞭に聞いたけど、夜縁が怪しい動きをしているのは確かだ。引き続き警戒する必要はあるね」
「紫蘭にカチコミ掛けますか」
「いや。まだ火種は小さいままがいい。それに準備も整っていないしね」
「ではしばらくは情報の収集という方向で宜しいでしょうか」
「うん、ふたりともよろしくね」
「「は。」」




「──さて紫蘭、これはいったいどういうことだろう」
「ああ申し訳ありませんわ、黄龍様、我々のほうもちょうど件の輩の根城を抑えましたの」
「ほう、うちに入り込んでいた蜥蜴はお前とは関係ない、とでも?」
「否定は致しませんわ。同じ龍人ですもの。ただわたくしとしては鬼人の子らを貶めるのは本意でないの。彼らは鬼人を亡霊小隊のように使おうとしていた輩です。いくら龍人といえどそんなものは許されません」
「流石に煌街にいながら起こる騒動を黙認していたわけではないだろう?」
「もちろんですわ。粛清したと思っておりましたが、まだ残党がいたようですわね。槐黄の皆様にお手間をかけさせてしまいました」
「──まぁ同じ龍人を龍人が罰するのは体が悪いだろうしね」
「正直に申し上げますと、大変に助かりました」
「我々としても、実りがあった、と言っておこうか」
「ええ。ええ。それなら大変結構ですわ」
「だが鬼人と龍人が衝突するうえでこちらに負担を強いられたのは事実。それについてはどう補填してくれるつもりかな」
「夜来香のラボ…は槐黄への報酬としては不相応かと思いますので、そこから通じる孔雀藍の橋渡しを」
「ほう」
「以前から孔雀藍への取っ掛かりが欲しいとおっしゃっていたでしょう?」
「ああ。ありがたいね」
「凰門東部と凰門南部、どちらがご希望に沿えるかしら?」
「どっちも欲しいなあ」
「あらお可愛らしいこと。ですが欲を掻いてはいけませんわ、…それに調律者はまだなのでしょう」
「どこまで知られているのやら」
「おほほ」
「ははは」
「──うん、まぁ仕方がないね。こちらならいいだろう。もちろんここでも龍人へのサービスをしているから……ここにも足を運んでくれるだろう?」
「……ええ。貴方の猫も、ぜひご一緒に居らして」
「……きみに味見をさせる訳には行かない」
「つれないわね、貴方でもいいのよ?」
「はは。きみにしては面白くない冗談だ」
「いけず、ってこういうことよね」
「どうだろう、確かめてみるかい?」


◇◆◇


──黄紫会合の結果、龍胆紫は今回の件の詫びとして孔雀藍と仲を取り持ってくれたらしい。
脅威は完全に去った、とは言い難いが、とりあえずの急襲は対応できたというところだろうか。
急拵えの対応にしては十分な成果だと思う。

──今日は久しぶりに柔らかいベッドで眠れそうだ。


【通常END1】
.