校舎から出てすぐ、わたしは降りしきる雨にどんよりと肩を落としていた。
傘?そんなもの持っていません。
宿題忘れが続いて(本当はやってない)、ついに先生に居残りで特別授業をさせられた。その結果、これである。
あああ、もう、最悪だ。いや、宿題忘れた(やってない)わたしが悪いんだけど!
暗くなった空から落ちてくる雨粒は止む気配などまったく纏っていなかった。

濡れて帰るしかないじゃん...。
わたしは大きくため息をつく。かばんを頭に乗せて、行くぞ、行くぞ、と勢いをつける。
教科書?そんなの心配いらない。すべて教室の机の中だ!
よし、とわたしは走り出す。パシャパシャと水たまりを蹴り、校門に向かってダッシュ。いや、なかなか強い雨だ。まあでもこんなこともなかなかやらないし、いいんじゃないの、なんて能天気に考えてながら走る。
が、待て待て、脇腹痛いわ、急に走っちゃダメだ。わたし、普段から特に運動もしないか弱い(嘘、怠惰な)乙女だった。
体育館の屋根の下に潜り込んで、一息つく。

「ああ...しんど...」

ぜえはあと肩で息をする。まだわたし10代なのに。
ていうか一瞬楽しい気がしたけど、これ何にも楽しくないわ。なに、なんなの。たった少し、まだ校内から出てすらいないのにビショビショなんですけど。

「おい、なにしてんだ?」

そんなわたしに不意に声をかけてきたのは、

「夕!」

クラスメイトで補修仲間の西谷夕だった。後ろには男子バレー部の面々。ああ、そうか、部活終わりか。男子バレー部はこの体育館だったね。

「お前びしょびしょじゃねーか、風邪ひくぞ」

彼がここにいる理由をつらつらと推測していたら、夕はそう言ってカバンからタオルを出し、わたしに放り投げてきた。

「わ、ありがとう!」
「俺の汗吸ってるけど」
「ちょっとまじで? 綺麗なタオル渡しなさいよ、女子ですけど」
「いいだろ別に、おなまえだし」
「はあ?」

あまりにも酷い扱いに食ってかかるが、夕はニッと笑っていた。

「傘はねーの?」
「ない、忘れた」
「忘れたってか、持ってくるつもりもなかった、だろ?」
「正解!」

言えば夕は得意げに笑った。
さすがだ、よくわかっていらっしゃる。伊達に1年の時から共に補習を受けていない。

「で、夕は?」
「俺も同じだ!」

ドーン、と誇らしげに彼は胸を張った。ああ、なんだ、途中まででも傘に入れて欲しかったのになあ...頼りにならないなあ!

「夕が今傘持ってたらヒーローだったのに」
「おいおい、俺をナメんなよ?」

得意げな表情は崩さぬまま、彼は再びカバンをあさり、出したのはバレー部のジャージの上着。それをどうするつもりだ。
ハア?と思いながら彼を見ていたら、

「おら!」
「わぶっ」

バサリとわたしの頭からジャージを被せてくる。

「なに、する」
「行くぞ!」

片手で被せられたジャージを避けようとしたけどそれは叶わなかった。なぜならば、わたしが被るジャージに彼もまた潜り込んできて、つまり、ジャージをわたしと夕の2人で被っていることになって。しっかり両手でジャージを握り、わたしを包み込むように被せてくる夕。同じくらいの背の高さだから、頬と頬がぶつかるほどの距離。

「えっ、え!?」
「うらああ!!」

背中を押されて思わず一緒に走り出す。

「傘がないからせめてな!」
「せめて、って、無茶苦茶すぎ!」
「ほら、離れると濡れる!」
「いや、どっちにしろびしょ濡れだけどな!? てか夕、汗臭っ」
「うるせー、健康的な汗な匂いだぞ!」
「風邪ひいたら夕のせい…!」
「は? 傘持ってきてないお前のせいだろ!」
「……たしかに!」

ふたりでバシャバシャと水たまりを蹴るのはなんだか少し楽しくて、雨降る道を笑いながら帰ったわたしたち。夕に取り残された男子バレー部の二年生たちはその光景を微笑ましく眺めていた、なんてことを聞けたのは、この日から3日後のことだった。


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