はじめくんの、唯一の部活休みの月曜日。
週に一回、授業が終わってのんびりできる日。
用事はないと聞いたから、一緒に帰ろうと約束を取り付けて、さあ、ホームルームが終わった、よし。

「あれー、おなまえちゃん速いねー」

ぴゅん、という擬音がぴったりなほど素早く教室を出た、はずなのに、廊下に足を踏み出した瞬間がしりと持っていたかばんを掴まれた。この声は。

「及川くん...!」
「わ、すごい邪魔だって顔された」
「うん、はじめくん待たせてるから!」
「えー、一緒に帰るの?」
「そう、約束してるの!」
「俺も混ぜてよー」
「お昼ご飯一緒に食べてるじゃん、我慢して!」
「ええー」

ふてくされた声を出すけど、及川くんの顔は悪戯好きの悪い顔。にやにやと笑みを浮かべて、わたしを捕まえたまま言葉を続ける。

「放課後デートかー」
「ででっ、デート、そう、ででっ」
「動揺激しすぎない?」
「だって!だって!」
「別に一緒に帰んの初めてなわけじゃないじゃん。なんか、その様子だと手すら繋いでなさそう」
「手、手くらい、繋ぐよ?」
「えー、じゃあ、ちゅーはしたの?」
「んなっ、な!」
「おいクソ川!!ぶん殴るぞ!!!」

大変踏み込んだことをぺらぺらと楽しそうに言う及川くんに動揺を隠せないまま、けれどなにか反抗しようとしたところで。
真っ赤なのに怖い顔して、そして大きな声で及川くんに怒鳴りつけるはじめくんがやって来た。
のに、及川くんは変わらず涼しげな顔。

「あれ、岩ちゃん、いつもならもう殴ってるのに!」
「ああ?」
「おなまえちゃんの前だと優しいね?」
「うるせえ!」
「ぎゃん!」

ごつん、と鈍い音がして、及川くんは顔面を殴られた。あれー、なんで煽っちゃったんだろう、及川くん...。
殴られた拍子にわたしのかばんを握っていた手も離れ、わたしはようやく解放される。ああよかった。

「当て付けみたいにからかってくるんじゃねーよ」
「うう...、おなまえちゃんの前なら平気だと思ったのに...」

へたり込んで、はじめくんの言葉にめそめそしている及川くん。残念だけど、同情の余地はない。

「ったくうるせーよ、お前ら」

と、ふら、と現れたのはバレー部の松川くんと花巻くんだった。大騒ぎしてるわたしたちの声を聞いてやって来たみたいだ。呆れ顔の2人は、倒れこむ及川くんとぷんぷんしているはじめくんにため息まじりに言う。
そして、彼らはこの状況どうしたものかと思っているわたしの顔を見、それからまた彼らで顔を見合わせたかと思うと、松川くんはやれやれとでも言いたげに軽く肩をあげてみせる。

「ほんと仕方ねーな、お前ら」
「よし、じゃあ及川、俺らとケーキバイキング行こうぜ」

松川くんに続いて、花巻くんが倒れこむ及川くんににかっと笑って言った。及川くんはのそりと起き上がる。

「ええー、なに急に」
「無料券ゲットした!」
「へえ!」

どやー!と嬉しそうに花巻くんは言う。甘いもの好きなのかな。及川くんは目をぱちぱちさせている。

「本当は4人までオッケーなんだけどな、岩泉は仲間に入れてやんねー」
「あ? なんでだよ」
「当たり前だろ!彼女持ちめ!」
「及川さんがいるのにねー」
「うるせえよ」

はじめくんが聞けば、しっしっ、と花巻くんがはじめくんと距離を置く。及川くんも不満げに文句を言っていた。
と、そんなやりとりが行われる中。わたしはというと何故か松川くんにじっと見られていてなんか気まずい。目がバチリと合ってとりあえず、へら、と笑ったら、松川くんは「あ、ごめん」と会釈してくれた。

「みょうじさんも大変だな」
「え?」
「岩泉と付き合ってんのに及川がついてきて」
「ああ、うん、まあ、大変だよ」
「否定しないのね」
「だって、及川くんはじめくんが居ないと生きてられないのかなって思うくらいどこにでも着いてくるんだもん」
「そりゃ面倒臭いなあ」
「でも...はじめくんの大事な友達と仲良くできて、わたしは楽しいよ」
「へーえ」

松川くんは興味深げに頷いてみせた。な、なんだ。なんなの。バレー部男子みんななんか、はじめくんのこと好きすぎるでしょ。品定めされてるみたい。

「てことで!」
「?」

松川くんの視線に、う、と身を引いたとき、花巻くんが及川くんを捕まえるみたいに肩を組んで、大きな声を出した。

「岩泉、さっさと行け!」
「おう、助かる」

じゃあなー、と笑顔で手を振る花巻くん。松川くんもひらひらと手を振って、及川くんだけくちびるとがらせてこっちを見てる。

「ほら、行くぞ」
「う、うん」

はじめくんに言われて、わたしも3人に会釈した後歩き出す。
ずんずん歩くはじめくんの隣に並んで、はたと及川くんの言葉を思い出した。
ズボンのポケットに突っ込まれた、彼の両手。
ときどき、ほんの何回か、手を繋いだことはあるけど、でも、及川くんの言う通り、手を繋ぐことすらまだ自然にできない程度には、わたしたちは初心だ。

「手ぐらい繋ぎなよー!」
「うるせークソ川!」

背後から、わたしの考えてることわかってるみたいに大きな声でさけぶ及川くんに、はじめくんは怒鳴り返して、フン、と息を吐いた。

「ったく、余計なお世話だっての」
「う、うん」
「...あ、いや、手を繋ぎたくないとか、そういうわけじゃねえから、な」
「う、うん!わかってる!」

改めて言われたら恥ずかしいな!わたしは必死に首を縦に振って、それからはなんとなく無言になって2人で校門を出た。
まだ外が明るいうちに一緒に下校するのは、今日が初めてだ。たまに一緒に帰る時は部活終わり、暗くなってからしか帰らないから、いつもは家に直行する。遅い時間に連れまわすわけにいかねえだろ、というはじめくんのお言葉をもらった。はじめくん、格好いい。
で、今日は早い時間なわけだけど。特にどこかに行く約束もしてなくて、校門を出てなんとなく、いつもみたいに家に帰る道を歩く。

「.........」
「.........」

ああ、なんの話をしよう。わたし、別にケーキバイキングとか行かなくていいし、ショッピングに付き合ってとも思わないけど、でも、2人っきりで歩くんだから、はじめくんと話をしたい。でも何を話そうか、お昼ご飯の時は及川くんもいるし話題に困ってなかったけど。今だっていろんなこと話したかったんだけど、いざ2人になると考えてたことすっぽり抜けて、反芻されるのは及川くんの余計なお世話な言葉たち。
手。手を繋いで、そして、付き合ってるんだから、恋人らしく、キス、か。でも。でも。はじめくんは、どう思ってるんだろう。
と、ふと、はじめくんが立ち止まる。

「...おなまえ」
「は、はい!」

なにごとかと返事をしたら、はじめくんはほっぺたを赤くして、こちらを見る。そして。

「ん、ほら」

大きな手を差し出してくれた。

「え、はじめくん」
「嫌なら、いいけど」
「い、嫌じゃない嫌じゃない!嬉しい!」

引っ込められようとした手をぱっと取って手を繋ぐ。ぎゅうと握られる手、感じる体温。あ、今わたしとっても幸せだ。

「は、はじめくん」
「ん?」
「あ、ありがとう!」
「なにがだよ」
「え、いや、なんとなく!」
「なんだそれ」

心のままに言えば、はじめくんはきょとんとして、でも最後は笑ってくれて。繋がれた手をぎゅっと握り返した。

「あー、で、だ」
「うん」
「どっか、寄り道するか?」
「えっ」
「その、行きたいところがあれば、付き合う、けど」
「え、えっと、えっと、じゃあ」

どうしよう、どうしよう!
なにも考えてなかった。ただ、はじめくんと一緒に帰れるのが楽しみだったから。
そういえば、最近できたカフェのパフェが美味しかったって友達が言ってた、でもはじめくん甘いのそんなに好きじゃなかった気がする。じゃあ、えっと、商店街とか行ってみるか、なんか、楽しいものあるかも、でも、え、どうしよう。
頭の中でぐるぐると思考は回るけどなにもまとまらなくて、あうあうとなにを提案しようか迷っていれば。

「...うお、まじか」

ゴロゴロ、と空から不穏な音が聞こえた。空を見上げれば、少し遠いところに暗い雲。そしてつぶやくはじめくん。続けてわたしも言葉を漏らす。

「あれ、今日雨だったっけ...」
「天気予報見てなかったな」
「どうしよっか、雨降る前にどこか、カフェとか行く?」
「あー、そうだな」

雨のおかげでなんとか行き先決定。
とはいえ、降り出したら困るなあ、傘ないなあ。

「お昼間は晴れてたのにね」
「降るなんて思ってなかったな」
「うん」
「カフェ、ってどこか良いとこ知ってんのか?」
「あ、えっと、友達が言ってたんだけど、最近パフェが美味しいお店ができたって」
「あー、それなら俺も聞いたな」
「そうなんだ?」
「及川が言ってた」

あー、言ってそう。チェックしてそう。
でもそうか、こういうとき、及川くんにおすすめの場所聞いておけば困らなくてよさそう。素直に教えてくれるかは怪しいけど。

「じゃ、こっちだな」

はじめくんはぐい、とわたしの手を引いて角を曲がる。あれ、はじめくん場所知ってるのかな。

「ごめん、わたしお店の名前は知ってるけど場所は詳しく知らなくって」
「あ? ...あー、まあ、大丈夫だろ。適当に行けば着く」
「え、適当って」
「いいから、着いてこいって」

そうしてわたしの手を引きながら歩いてくれるはじめくん。適当に歩いて着く、かな。はじめくんそんなエスパーな力ないよね、だなんてことを思って、ちら、と横顔を盗み見た。ら。

「は、はじめくん?」
「...なんだよ」

ほんのり赤い頬。さっきより、わたしの手を握る彼の手に力が入る。あ、そうか、もしかして。

「...ありがと」
「だから、なにがだよ」
「なんとなく!」

へへ、と笑うと、はじめくんは照れ隠しみたいにわたしから顔を背けた。
はじめくん、きっと及川くんにお店のこと聞いて、場所を調べておいてくれたんだ。でも、最初からそこに行こうって決めないで、わたしの希望を聞いてくれるとこ、優しい。
一緒に帰れるって喜んでたの、わたしだけじゃなかった。嬉しくて、足取り軽やかにはじめくんに連れられて歩く。

と、順調に放課後デートを進めていた、のに。

「わ」
「っ、早かったな」

ぽたり、と落ちた雫。思ったよりも早く、雨が降ってきた。速足で歩いて行こうとするけど、目的のお店は確かもう少し遠いはず。どのあたりにあるのかって友達に聞いて、結構歩くなあ、なんて話をしたから。
そうこうしてる間に雨粒はどんどん大きさと量を増して大雨になって。

「おなまえ、これ被ってろ」
「ひゃ、」

はじめくんが咄嗟にジャケットを脱いで頭から被せてくれる。わ、はじめくんの匂いがする。

「あ、ありがと」
「行くぞ」

ぐいと手を引かれて、走り出す。片手でジャケットを抑えて、もう片手ははじめくんの手に引かれて。走ってるからだけじゃない、心臓の高鳴りと速くなる呼吸。息をすればはじめくんの匂いがするし、はじめくんの体温を片手で感じるし、大粒になった雨に打たれているなんてまるで気にならないほどにわたしははじめくんのことで頭がいっぱいになってしまった。はじめくん、1人だったらきっともっと速く走れるのに、わたしでもついていける速さで、でもしっかりと引っ張ってくれる。被ったジャケットの下から前を走る背中を見て、喉の奥が締め付けられるほどに嬉しくなった。
そして途中で見つけた公園に走り込むと、大きめの滑り台の下に潜り込んだ。
ぜいぜいと肩で大きく息をする。心臓が破裂しそうなほどに脈打って苦しくてたまらないけど、それが幸せなわたしはちょっとおかしいかもしれない。
顔を上げると、ぶるぶると頭を振って水滴を飛ばすはじめくん。煩わしそうに「あー」と声を漏らす。

「くっそ、こんなに降るなんて聞いてねー」
「雨、落ち着いたらコンビニで傘買おうか」
「そうだな。寒くない、か...」

と、わたしと目が合った瞬間、弱まるはじめくんの声。不思議に思って首をかしげたところで気がついた。
はじめくんとわたし、とっても近い距離にいる!
大きめの滑り台とは言え、体格のいいはじめくんと、さほど小さくない身長のわたしがふたりで並ぶには狭いそこ。必死に潜り込んで気がつかなかったけど、これは、これまでにないほどの至近距離。はじめくんの濡れたシャツ、髪、肌。手を握られたときよりも大きく感じる体温。どきりとして思わず下を向く。そして無意識にわたしは一歩距離を置けば、体は少し滑り台から出てしまって。

「っ、濡れるだろーが」

咄嗟にぐいと手を引かれて、再び至近距離。わ、わ、わ!こんな、こんなに接近したのって、本当、1番初めにわたしが怪我をしたのを助けてくれた以来なんじゃないの!?

「...く、わ、悪い」

はっとしてはじめくんはわたしから身体を離して距離を置く。赤くなった顔を見て、わたしも同じように顔が熱くなった。けど、今度ははじめくんの肩が濡れるのを見て。

「はじめくん濡れてる!」
「うおっ!?」

わたしも思わずはじめくんの胸のあたり、シャツをぎゅっとつかんで引き寄せた。そうすれば、思いがけずわたしははじめくんの胸にすっぽりと収まる形になった。はじめくんはすっぽり収まる形になったわたしを抱きしめるでもなく、手を宙に浮かせて落ち着きどころを見失っていた。
時間が止まったみたいに固まって、雨音だけが耳に響く。
どうしようどうしよう、なにこれ恥ずかしい!心臓がばくばく言ってるどうしよう!ふと気がつけばはじめくんの濡れたシャツ越しに、はじめくんの心臓の音が聞こえてくる。そ、そうか、はじめくんもどきどきしてる、そっか、嬉しい。いやでもちょっとこれどうしよう!
ぐるぐるいろんなことを考えたけど、でもどうしようもなくって、はじめくんのシャツを離して被ったままのジャケットを深くかぶり直す。離れればまた雨に打たれてしまうし、そしたらまたはじめくんに心配されちゃうから、とわたしは動けない。はじめくんもきっと同じように思ってるんだろう、この距離感に戸惑いながらも離れないまま、ただじっと向かい合っているだけ。
すっぽりとジャケットを被って、ああはじめくんの匂いに支配された空間だ、だなんて悶々と考えていたら、ふと肩に温かみを感じた。
なんだろうとびくりと肩が跳ねたら、その温かみは一瞬離れたけれど、でもすぐにまたゆっくりとわたしの肩に触れた。
これは、はじめくんの、手?
そうやって状況を理解しようとしていたら、そのままぎゅうと抱きしめられた。
少し冷たいシャツは、すぐに体温で温かくなって。背中に回された腕は優しくて力強い。

はじめくんの匂いがする。はじめくんの体温を感じる。はじめくんの心臓の音が聞こえる。すごく、すごく近くにはじめくんがいる。ああ、匂いだけじゃなくて、わたし、身体全部ではじめくんを感じてる。全部全部支配されてる。
わたしはそっと、そっと、はじめくんの胸に身体を預ける。そうしたら、安心したみたいにはじめくんの身体から力が抜けた。
そして、ぽん、と頭に乗る手。ゆるゆると頭を撫でられる。最初は弱く、触れる程度。だけど少しずつ、力が入って強く、でも優しくゆっくりと撫でられて。

「......」

ごくり、とはじめくんが唾を飲む音が聞こえた。とっても緊張してる。はじめくんの心臓もどくどくと早鐘を打っている。

「...おなまえ」

緊張のせいか掠れた声で呼ばれる名前が雨音と一緒に降ってくる。
わたしも思わずごくりと唾を飲む。
ふと、身体が少し離れて、どうしたのかと思ったら、被ったジャケットが不意にそっと捲られた。明るくなる視界に飛び込んでくるのは、緊張した面持ちのはじめくん。まっすぐ、まっすぐわたしを見つめる瞳と、視線はぶつかって。
片手で肩を抱いて、もう片手でジャケットを上げてわたしを見つめるはじめくん。はじめくんのきりりとした目に、少しだけ寄せられた眉。こんなに近くで見るなんて、と思ったら、その顔はゆっくりと近づいて、わたしのくちびるに、はじめくんのくちびるが優しく触れた。優しく、柔らかく、触れて、離れて。
まるで長い長い時間そうしていたような気持ちになって、わたしは目をまあるくさせているしかできなくて。でも、でも、これはきっと一瞬のことで。
思わず止まっていた息を再び吸ったとき、はじめくんは捲っていたジャケットをぐいとおろし、わたしの視界はまた暗くなった。そしてそのままぎゅうと抱きしめられる。

「...っ、はああ...」

そうしてジャケット越しに聞こえる溜息のような、深呼吸。
わたし、わたし、今。はじめくんと。

「悪い、...嫌だったか?」

ぎゅうとジャケット越しにわたしを抱きしめながら、はじめくんは固い声で言う。
嫌なわけない、嫌なわけないよ!
でも、どうしてか声が出なくてわたしはただ必死に首を振ってみせた。そうしたら、ジャケット越しでも伝わったようで、はじめくんがふと笑うような息を漏らしてそして優しく、

「そうか」

一言だけ言ってみせると、ぎゅうと抱きしめた腕の力を抜いた。そうしてわたしの肩に顎を乗せる。

「...緊張した」

微かに笑うはじめくんの様子が伝わってきて、わたしも、わたしもだよ!なんて、声に出せないまま強く思って、またぎゅうとシャツを握る。
はじめくんはわたしを抱きしめたまま、ゆっくりゆっくり、もう一度頭を撫でてくれる。大きくて、温かくて、優しい手。ジャケット越しのそれはとても心地よくて、幸せで。高まる鼓動と幸福感。ああもう、ああもう!その幸福感になんだかどうしようもなくもどかしくなって、わたしは耐えきれず被っていたジャケットを引っ張って下ろすと、はじめくんを見上げた。

「はじめくんっ」
「......っ」

至近距離のそれはとても緊張するけれど、でも。

「わたし、はじめくんのこと大好き!」
「え、お...、おう...」

全部全部この思いが伝わってほしいと、まっすぐに言えば、はじめくんは動揺して顔が赤くなっていたけれど、でもしっかり頷いてくれて。嬉しくて笑えば、はじめくんは赤い顔のままふいと目をそらし、眉間にしわを寄せて。少し息を吐いて、吸って、わたしを見て。

「おなまえ」
「は、はい」
「俺もおなまえが好きだ」

まっすぐまっすぐ、それない視線。

「...っ、うん、うん!」

わたしは嬉しくてたまらなくて何度も何度も頷いた。

「はは、動物みてえ」
「ええ!?」

そうしてわしゃわしゃと頭を撫でられる。
あれ、扱い変わった!!
ちょっと不満に思っていれば、頭を撫でていた手が頬に滑り、大きくてごつごつしたその手は頬を優しく撫でる。そしてはじめくんはとっても穏やかに微笑んでいて、その優しい瞳にわたしも自然と笑みが浮かんだ。

「好きだ」

そうして降るのは2度目のくちびる。
柔らかくてあったかくて、今度は初めてよりも少しだけ長く触れていて。
離れた後、やっぱり恥ずかしそうにわたしをぎゅっと抱きしめてくれた。

はじめて触れる



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