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「……俺の扱い、酷くないか?」流石のウィリアムも、今回ばかりはシセイに同意した。
三人が調べに入ったのは、宝物庫。宝物庫、と銘打っているものの、部屋中が埃塗れで入ろうという気にはなかなかなれない一室である。動く度に舞い上がる埃に咳き込みつつ中へ入ったところで──音が聞こえてきた。
何かの割れたような音に反応して走り出そうとしたシセイ。そんな彼の首根っこを掴み、ルイスはウィリアムに向かって投げつけてきた。思わぬ物体の飛来に驚いたウィリアムは──咄嗟に避けてしまう。結果、シセイは見事なスライディングを披露することとなってしまった。多少額が赤くなってしまっているものの、目立った外傷が無いのは下に敷いてある絨毯のおかげか。埃が積もっていたらしく、もろに吸い込んだシセイは激しく咳き込んでいたが。
赤くなった額を押さえつつ、シセイは無造作に一冊の本を手に取る。
「こんなもんを大事に取っといて、意味あんのか?」
「歴史的価値を知りなさい」
目前の頭をガツンと殴ってウィリアムは本を奪還する。シセイからしてみればただの古びた書物でしかないのだが、本好きのハチヤがシセイの取り扱い方を見れば発狂しそうな程度には価値のある物だ。一般の書庫に置かれていないことからも分かりそうなのだが、シセイにそれを求めるというのは酷というもの。
「こんな、埃塗れの品々が大切なもんだとは思えねーけどな」
「だから、触るなと……!」
普段ならばともかく、幼くなった悪戯っ子を押さえつけることならばウィリアムにも出来る。そしてそのまま、抱き上げた。互いに不本意であることは重々承知だが、歴史的価値のある品々を損ねることに比べれば些末な問題である。
頭を切り替え、シセイにセル感知を促そうとしたとき、当のシセイが勢いよく顔を上げる。危うく顎に頭突きを食らうところだったウィリアムは、寸でのところで何とか避ける。
「……急に顔を上げないでください」
自分に非があったとしても、抗議の言葉には取りあえず噛み付いてくるのがシセイ。だが、無言で空気を嗅ぐ姿に尋常ではない様子を感じ取ったウィリアムは、静かに表情を引き締める。
「少しだけ、セルの匂い」
「今回の事件との関連は?」
「あったらもっときつくて、耐えれるわけねぇだろ」
んー、と唸りながら言葉を探す姿は可愛らしいのだが、何故か床に落としたくなる。
しばらくして、ようやく考えが纏まったらしいシセイとは対照的に、ウィリアムは考え続けていた。落とすべきか、否か。
「匂い的に、セル本体は回収されてんだよ。でも、結構強いセルだったみたいで、影響受けてちょっと変になった作品の宝庫?」
「……人体に影響は」
「無い。残り香が残ってる程度だから」
作品見にこの部屋に来たら体感時間が狂う程度かなー、とシセイは笑う。が、ウィリアムは無言で彼を抱く腕を緩めた。当然、自然落下。派手な音が響くが、音の割に怪我が少ない──むしろ無いということは、過去のシセイが体現している。
舌を噛んだらしいシセイが涙目で見上げてきたことに、若干の罪悪感がないわけでもない。が、謝ることは何となくプライドが邪魔をする。そもそも、シセイが重要なことをサラッと軽く口にしたことが悪いのだ。自分は悪くない。
ウィリアムが自己完結している間に、シセイは立ち上がり無言で扉の方へ歩き出す。
「シセイ?」
「……出る。こっちくんな」
端的にそれだけを口にしたシセイは、体中で怒りを表現しながら部屋を出てみせた。
足音は大きく、扉の開閉は乱暴で。
(随分と子供らしい態度で……ああ、今は実際に子供でしたか)
来るな、と言われてもあの状態のシセイを放置できるほど、ウィリアムは人でなしではない。
シセイの機嫌をとらねばならないことを思うと憂鬱になるが、先ほどの自分の対応は間違っていないはずだ。
そう考えつつウィリアムが扉を開けた瞬間、誰かの悲鳴が響き渡った。
2012/06/02
制作:雲房十時さま