16
四人が屋根裏へ入ってから、体感時間としては数分が経過していた。「…大丈夫でしょうか」
「大丈夫なんじゃない? さすがに四人も居れば逃がさないでしょ」
呟いたウィリアムに応えたのは、ユークリッドを抱えたままのテン。ウィリアムとしては四人の身を案じる意味で言葉を選んだつもりだが、テンはセルの捕獲が成功するか否かの心配として受け取ったようだ。彼女の頭は仕事でいっぱいらしい。
現在、下に残った五人はテンの感覚と僅かな足音を頼りに四人を追うように移動していた。屋根裏への出入口は厳重に封鎖。セルと接触するまで帰ってくるな、というテンの心境の表れである。
自室から引っ張り出してきた愛用の鉈を腰に下げて、いつでも臨戦体勢に入れる状態のテンの足取りは軽い。対するエルヴィは上に居る小さなクライドが気になるのか、気もそぞろといった様子だ。
「転ばないでよ、エルヴィ」
「クライド、大丈夫かなぁ」
「…聞いてないし」
頭上を気にして歩くエルヴィにテンが声を掛けるも、返答は的外れ。彼の頭は片割れでいっぱいらしい。
「ウィリアムも、真下に居ると何かあったとき危ないよ」
「あぁ…うっかりしていました。すみません」
何となく時計屋二人を観察していたウィリアム。頭上の足音が止まったことに反応が遅れて、真下に出てしまったらしい。テンに腕を引かれて一歩下がる。
「あと、これ宜しくー」
そんな軽い言葉と共に、腕を掴んだついでと言わんばかりに、黒猫(であるユークリッド)を手渡された。
「いいでしょう、預かります」
「…私はモノではない」
ウィリアムの腕に収められて、ユークリッドが不服そうに唸る。
直後──頭上で大きな音が上がった。
いち早く反応した時計屋二人が武器に手をかける。
「始まったみたいだな」
「あぁ」
天井で隔てられた音源に注意を向けながら、リミルトとルイスが得物に手を伸ばした。非戦闘員であるウィリアムはユークリッドを抱えたまま距離を取る。
その後、叩きつけるような音が数回続き、一際派手な音と共に──天井が落ちてきた。
2012/12/01
制作:名月魚々