とある路上で
とある路上でとにかく早く帰らなければならない。
その思いを胸に走っていたシセイだったが、後方から己の名を呼ぶ声が聞こえることに気付く。ここはもうB地区。スラム街から始まった鬼ごっこは、シセイの不注意から敗北で終わっている。
(……つか、この声って)
どこかで聞いたことのある声。それも、徐々に近付いてきている。
「シセイさん! いい加減、止まってください!」
「ミミミミレイユ!?」
そんなにミは多くないです! と応答しつつも距離を縮めてくるのは、出来れば会いたくなかった同僚の姿。彼女自身が嫌な訳ではない。命令違反をしている以上、誰にも見つからずに帰りたかっただけだ。
時計屋随一の脚を誇る彼女から逃げきれるはずもなく、すぐに二人は並ぶ。
「あの、ハチヤさんから……」
「あ、ちょ、止まろう。もう無理」
走りながらすぐに話し出したミレイユを止めたシセイは、彼女が止まるよりも先に立ち止まるとそのまま座り込む。スラム街での鬼ごっこに加え、今まで全力疾走。普通の人よりも体力に自信はあるが、流石に走りながらの会話はキツい。
息を整えながら、シセイはミレイユに先を促す。
「はい。あの、ハチヤさんからシセイさんを捜してくるようにと」
「……ハチヤが? 何か言ってたか?」
「ただ、シセイさんを捜していたハチヤさんに捕まって、早く見つけて連れてこいと」
うわ、と小さく呟いたシセイは、のろのろと立ち上がる。
「なあ、ミレイユ。命令違反とあいつの本を勝手に捨てたの、どっちで怒られると思う?」
「それは……両方かな?」
「はは……だよなー」
帰りたくないと全身で訴えながらも、その足は確かに本部の方へ向けられている。
そのことに安心しながらも、ミレイユはシセイの手を取る。不思議そうなシセイに見せつけるよう、握った手を二人の間で振ってやる。
「シセイさんがもう逃げないように」
「逃げねーよ!」
手を繋いだまま、何も言わずに走り出したミレイユ。シセイには転ばないようについて行く以外、道がなかった。転んだとしても気にせず、彼女はシセイを引き摺って走り続けるだろうから。
2011/12/18
制作:雲房十時さま