とある食卓で
とある食卓でワリと普通に喋るからか然程気にはならないが、ハチヤは能面だ。普段からあまり表情が変わらないし、稀に呆れた表情を見せることはあっても笑うことはまずない。
テンがハチヤと知り合ってから経過した時間は5年程になるが、笑顔と呼べる表情を見た回数は手指で数えられる。
具体的に言うと、6回。
1年365日8760時間の間に1.2回しか笑わないとか、どんだけだよ。
そんな突っ込みは置いておくとして。
問題は、それほどまでに滅多に笑わないハチヤが今現在、分かりにくいが確かにうっすらと笑っているという事実。
しかし、その笑顔に爽やかさなんてものは微塵もない。むしろ禍々しい気配すら伝わってくるその笑顔は、明らかに機嫌が悪いときの笑い方だ。
一言で表すのなら、そう。
「………怖い」
テンは遅い朝食としてミーティスの焼いたパンをかじりながら、思わず呟いた。
どうして起き抜けにハチヤの禍々しい笑顔なんて拝まなければならないのか。同じ不快感なら辛気くさい顔の方がまだマシだ。
少し離れた席で新聞に目を通しているハチヤを、極力視界に入れないようにしながら、内心毒づく。
「あの…ハチヤさん?」
テンの向かいの席でコーヒーを飲んでいたミーティスが、滲み出る黒いオーラに耐えかねたのか控え目に口を開いた。
「機嫌がよろしくないようですが…どうかしたんですの?」
「ん? あぁ…」
ミーティスに訊ねられて新聞から顔を上げたハチヤは、一瞬、考えるように真顔になる。
そして漂っていた禍々しい空気を払拭するような、それはもう、爽やかな笑顔を浮かべてみせた。
「気にするな、シセイがちょっと…な」
「そ…そうですの」
これ以上関わるのは危険だと判断したのだろう、ミーティスは深入りすることなくコーヒーへと視線を戻す。
ミーティスでなくても今のハチヤには関わりたくないだろう。テンだって朝食という誘惑がなければ食堂自体から逃げ出したい気分だ。
禍々しい空気は先ほど払拭された。その笑顔は何も知らない純情少女が見れば一目惚れしてもおかしくない爽やかさだったと言える。しかし、あくまでも何も知らない純情少女だったらの話だ。自分たちにしてみれば『怖い』の以外の何物でもない。
惚れられそうに爽やかな笑顔が怖いとか、どんだけだよ。
そんな突っ込みは置いておくとして。
「……シセイ。僕の平穏な朝食タイムを奪った罪は重いからね…」
「きっとテンちゃんが何かする前に終わってしまいますわ…」
八つ当たるように呟くテンと、同情するように嘆息するミーティス。
ミレイユに連れられたシセイが本部に帰宅するまで、あと少し。
2012/01/29
制作:名月魚々