Crack Clock - NPC
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聖人ではない彼女の話

 年下に対して、何故それほどまでに過保護なのか。

 ラゼットにとっては、年齢に関わらず年下の存在全てが「守るべき存在」であり、気に入った相手に対しては束縛ともいえるほどの執着を見せる。己の後継者と定めたクロリスに対し、一週間の軟禁を行ったことは記憶に新しい。
 行き過ぎた愛情とも取れるその行動に、被害者であるはずのクロリスはそう問いかけた。生まれてすぐに孤児院へ預けられたクロリスにとって、育ててくれたラゼットこそが絶対。いくら周囲が「彼女の愛情は異常だ」と口をそろえても、その「異常な愛情」を普通のものとして与えられたクロリスには理解のできないこと。ただ、他の子たちよりも構ってもらえていることが嬉しくて、ほんの少しだけ優越感を抱くだけ。
 ラゼットが「異常」であることは理解できないものの、彼女が他の人間よりも年下に対して過保護だということくらいは、成長したクロリスにも分かってきた。だからこそ、彼女の部屋に閉じ込められてやることの無くなったそのタイミングで切り出したのである。尤も、クロリスがラゼットに閉じ込められているというのはあくまでも周囲からの評価であり、ラゼットは大切な少女が陰口を言われている瞬間に立ちあってしまったがために「彼女が傷つくことが無いよう守ってあげている」つもりだし、クロリスは「ラゼット様が傍にいてほしいと願ってくださったから、追い出されるまでは決して部屋から出ないでいる」だけである。
 同じ部屋で読書に勤しんでいたラゼットは、急な問いに顔を上げる。クロリスの方を見てその真意を探ろうとするも、クロリス自身、単なる興味で問いかけただけのこと。探られるほどの深い意味は無い。すぐにそのことに気付いたラゼットは、クロリスから視線を外して自らの思考に潜る。

(いつからか、と問われたら)

 それはきっと、自分の子供を奪われたあの瞬間からだろう。愛しい人との間に生まれた子供は、相手の家の勝手な都合で奪われてしまった。彼女が生きているのか死んでいるのか、それすらも分からない。だからこそ、我が子と同じくらいの年齢の子供――特に、少女には優しくしていた記憶がある。更にそれが悪化したのは――きっと、甥が行方不明になったことが原因だ。
 妹夫婦が自分と似た境遇になったこと、泣き叫んで自らの息子を探す妹の姿にどこか満足感を覚えていた自分に気付いてしまい、その罪悪感を埋めるためなのか年下に対してやたらと構うようになったのだ、と思う。当時はそのようなことを考えていなかったのだから。けれど、冷静に自分自身の思考や行動を思い返してみれば、きっとそれが正しいのだろう。
 とはいえ、このような醜い話をクロリスに伝えることは無い。ラゼットにとって、クロリスは穢れなく純粋な、神子とも言える存在なのだから。そのような愛しい子供に、己の醜い側面を見せる訳にはいかない。

「私にとって、私よりも幼い存在全てが守る対象だから、ですね」
「……それ、答えになってません」

 まあ、それでも構わないですが。そう笑うクロリスの頬に、ラゼットはそっと触れる。その手に自らの手を重ねたクロリスは、どうかしたのか、と首を傾げた。とはいえ、ラゼット自身も目的があって触れたわけではない――しかし、首を傾げた彼女の姿に、零れ落ちた言葉。

「クロリス、消えないでくださいね」

 突然そう言われても戸惑うだけだろうに、クロリスは静かに微笑んで頷いて見せた。





2012/11/20
制作:雲房十時さま

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