I would like to meet you.
「じゃあまたな、シェリ」「うん、お仕事頑張ってね」
自分の頬に優しく口付ける彼に応えて、シェリフルールは笑顔で手を振る。見えなくなるまで見送って、胸の高さで振っていた手を下ろした。
振り返ることなく去った彼を冷たいとは思わない。自分を恋人のように扱いながら、決して本気にならない彼との逢瀬はお気に入りだった。
お互い本気にならないのなら、いくらでも上辺だけの愛の言葉を囁ける。
『──愛してる』
昨晩、彼がホテルで冗談めかして囁いた言葉が、耳の奥に残っている。
幾度となく囁いて、囁かれた、欲にまみれた『愛』の言葉。
──ふと、シリュウの顔が頭に浮かぶ。
盗品売買を生業としている彼は今、自分の店にいるだろうか。
沈んだ意識を引き戻すように、シェリフルールは思案する。
今日は仕事の呼び出しも約束もない。一夜の宿を確保するためだけに男を引っかける気にもなれないし、彼のところに泊まるのもいいかも知れない。
しかし、シリュウの店はスラムの中だ。いつ暗くなるかわからないし、一人でスラムを歩くのは危険だろう。
キースの家の方が近いかと思い直して、西へと足を踏み出し──止めた。
踵を返して、スラムのある北へと向かう。
スラムを一人歩きするなんて無用心だと怒られそうな気もするが、それはそれで構わない。ごめんなさいと謝って、会いたかったのだと素直に伝えればいい。
優しい彼は許してくれるだろう。
呆れたように怒って、仕方ないと許して、そして、抱き締めて。
そうしたら、きっと自分は満足する。
「だって、好きなんだもの」
無意識に唇から零れた本心は、彼女自身に届く前に。
──いたずらな風に呑まれて消えた。
...fin
2012/02/19/2012/11/15 修正
制作:名月魚々