「閻魔様ァ、早く決めちゃってくださいよ」
地獄の裁判を始めてから早一時間。
地獄にやってきた死人の裁決がいまだ決まらず、獄卒の馬頭が閻魔様に物申した。
こうしている間にも、たくさんの死人が地獄の門を叩く。ぐずぐずしていたら、門の前は死人で身動きできなくなってしまうのに。
「そんなこと言われても……」
閻魔様は迷っていた。というかいつも迷うタイプで、こうして部下である馬頭と牛頭にせっつかれなければ仕事を完了できない優柔不断な性格なのだ。今もう〜んう〜んと唸りながら、今回の死人の罪についてああでもない、こうでもないと決めかねている。
地獄の閻魔と聞けば「死者の生前の罪を暴き、断罪する恐ろしく畏怖すべき存在」である。
しかし実際は死人の罪といっしょに生前の善行リストも見てしまう「お人よし」でもあった。そんなもん見なきゃいいのに、と馬頭に言われても「いや〜〜世の中悪い人ばっかりじゃないっしょ」と言って離さない。そう言って一人の死人に時間をかけすぎて、最長二ヶ月待たせたこともある。
これは生きている人間の前では絶対に秘密の、地獄の真実であった。
いったい、何に迷うというのか。
馬頭の相方の牛頭がのんびりした口調で問うた。今回の死人の罪は「同僚のスマホで勝手に奥さんにメッセージを送った」ことらしいのだが、動機が、
「新婚生活を送っている同僚の言動が、毎日うざすぎて浮気を匂わせるメッセージを送った……と」
「それは絶対だめなやつでしょ!!」
馬頭が駆けるように早いツッコミをする。そのメッセージが元で同僚は離婚の危機にまで追いやられ、信用を無くしてしまったらしい。しかしその同僚の言動も、ログを見返せば割と酷い。
当時独身だった死人に対する言動は嫌がらせにも似て取れた。それが発展してトラブルとなり、死人は同僚と問答するうちに交通事故に巻き込まれたようだった。
同僚が自慢さえ、マウントさえしなければ、こんなことにはならなかったはずなのに……。
「うーん、もう、サイコロで決めるか!」
笑顔で言った閻魔様に、牛頭と馬頭は「それもダメなやつ」と声を合わせて言うのだった。