冬と春との境目であるこの時期。学年最後の卒業制作が残っていた。
本当なら秋に製作物を発表するが、この学校には三月にもう一度だけ作品を提出しなければならない。その、作品とは――
「ちょっと、その魔法陣デザインおかしくない?」
「そっちの魔法薬もなんか変な匂いしてるよ! 同じチームの人はちゃんと見て!」
この学校は魔法学校。魔法に関する製作物、制作結果をこの三月に発表し、卒業する。秋の集大成で点数はもう決まっているし、三年生はすでに進路が決まっているから、この制作に意味はあるのか。来年に最上級生となる二年生は、先輩たちの地獄の制作を隣にジト目になった。
その一人、アコヤは先輩であるリーヤを見つけ、借りてきた猫のように人を避けながら彼のもとへ赴く。
「リーヤ先輩! 差し入れです。お疲れ様です」
リーヤは魔法薬が完成したところだった。暗幕を教室の隅に取り付け、今からその製作物の効果を確かめる。
アコヤはリーヤが作る薬が好きだった。人の心を温める薬、笑いたくない時にも笑わせてくれる薬。おいしくない料理もおいしく感じられる薬……など、不思議でどこかほっこりする。そんな魔法薬が多かった。
「おう、来たか。差し入れはいいから、ちょっとこっちこい」
リーヤはアコヤを呼んだ。手をひらひらと泳がせて、フタのされた試験管を見せる。桃色から海のようなグリーンのグラデーションの液体が入っていた。リーヤは勢いよくそのフタを開け、空中に向けて――投げた。
「……わあぁあ!」
すると、その液体は眩い光に包まれ、生まれ飛び立つ。まるで液体がいくつもの命を持って、蝶々の群れへと変わっていったのだ。
「卒業するまでに、これを見せたかったんだよなあ」
リーヤは感慨深そうにそれを眺めて、アコヤに向かって笑いかけた。