ラジオのラッジと声なき少女

「ああ? 前に母さんと踊った曲をかけてくれだって?」

 ラッジは訝しんで言った。
 ラジオと人間のハーフである少年のラッジ。彼の頭からは、聞いたことがある曲だけを流すことができる。ラッジは自分がラジオ人間であることをあまりよく思っておらず、心を許した人にだけ曲を聞かせていた。
 そんな彼にリクエストが入った。喉の手術を終えたばかりの女の子、レントだ。西洋人形のように美しいレントは、無表情だがしっかりと頷く。お見舞いに来たラッジは、レントの言う事を聞くことになってしまった。

「そう言われてもなァ。踊りの音楽なんざ俺は聞かねえし。キッズ系の曲か……?」

 ラッジは頭をひねって――ついでにチューナーをいじりながら――音楽を探し始めた。ジャズにポップ、クラシック。アニメ曲にヘビメタ。しかしレントはどの音楽にも首を横に振る。

『ちがうそれじゃない』
『もっとあかるいきょく』
『そんなにうるさくない』

 いったい、どれだっていうんだ。ラッジもレントも段々とイラついてきた。しまいには、待てなくなったレントが腕を伸ばし、勝手にラッジのチューナーを掴んでしまう。ラッジは「おい!」と驚いたように大きな声をあげ、手を振り払った。

「いい加減にしろ! 名前のわからねぇ曲をかけろって言われてもわかんねぇよ!」

 あきらめな、と強く言われたレントは大きな涙をためて俯く。ラッジはため息をついた。わかっているのだ。母親には明朝まで会えない。それまでの寂しさを、母と聞いた音楽で気を紛らわせたいのだと。
 彼はレントの頭を撫でると、また明日の朝に母親と一緒に来ることを伝え病室を出た。

 翌朝。迎えに来たのは八時半だったが、病院の看護婦さんたちは綺麗に支度してくれていた。ラッジは昨日のレントが気になっていたが、レントは手術後だと思えないほどにはしゃいでやってくる。そして、

「え? 昨日言ってた曲がわかったって?」

 レントは大きくうなずいて、無理やりラッジのチューナーを握る。ラッジが慌てて腰を落とすと、レントはゆっくりとチューナーをそれに合わせた。聞こえてきた曲を聞いて、ラッジの瞳が大きく見開かれる。それは、

「……おまえ。これ……ラジオ体操じゃねえか。」

 レントはにっこりと笑って、呆れるラッジに飛びついた。

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