ハロウィーンの夜。
この国では、死者の国から死んだものが蘇って家に帰ってくる。そう言い伝えられていた。死んだものがやってくるというのは、心当たりがある人間からすれば恐怖に近いだろうが、たいていは亡くした家族や思い出を偲ぶ日で、歓迎するための準備を一ヶ月前から行う。
イーシャの家も、それは同じ。亡くなった母親がもうすぐ家に帰ってくる。
父は慌てながら飾り付けの最終段階を迎えていた。母親の遺影の周りには沢山の花とランタンを飾り、窓には手作りの銀のボールの装飾。テーブルの上には父と一緒に作った温かい料理がすでに並んでいた。
イーシャはドアノブの両側に鈴ををつける。母親が帰ってくると、誰もいないはずのそれが鳴る仕組みなのだ。
「お母さん、私のこと覚えてるかなぁ」
「それは、お母さんも同じことを思っているんじゃないかな」
イーシャが何気なく言った言葉も父親は見逃さない。一年前に亡くなった母親は、一年くらいじゃ忘れたりはしない。そっかあ、と答えたイーシャは嬉しそうにほくそ笑んだ。そうであっても、そうでなくても、言って欲しい言葉を言ってもらえるのは嬉しいものだ。
そうだ、とイーシャは言った。
「帰ってきたら、お父さんはお母さんと何をやりたい?」
娘は単純な疑問を口にした。自分が母親に会いたいのも確かだが、それは父親も同じ。父は母と再会したら、何を話すのだろう。そうだなあと飾り付けをするための梯子に腰掛けていた父親は、顎に手を当てて考える。
娘がこんなに成長したとか、仕事が少し上向きになってきたとか、あと、愛している。だとか。
「たくさん、話がしたいなあ。でも」
「でも?」
イーシャが父親を見上げると、父は懐かしそうに微笑んで。
「二人でワルツを踊ろうかなぁ」
そう言った。