友達だったから

「鉄郎を呼んで来い」

 毬栗頭の目の細い男が、俺を殴って吐き飛ばした。頬の痛みは後からやってくる。頭がふらついて、思考が鈍っている中で、ボンヤリと思う。

 廃工場が集合場所になっている時点で行くのをやめておけばよかったって。

 だけどあいつの代わりに行かないという選択肢はなかった。

「聞いてんのか、てめえ!」

 ぼぐりと毬栗頭の膝が俺の腹に食い込む。嫌な音がした。
 もともと喧嘩は強い方じゃない。むしろ一対一でも勝てるかどうか怪しい方。無駄な争いはしないタイプ。どうしてそんな俺が、こんなところに一人でノコノコやってきたかってそりゃあ……。

 頭の中に鉄郎の顔が浮かんだ。
 金髪、ピアス、眉毛なし。頭は悪いのに小賢しく、喧嘩だけが取り柄のあの男の顔が。

 毬栗頭の連れが、工場の中を探る。きっと、俺の頭を殴るのにちょうど良さそうなものを探しているに違いない。薄暗く埃くさい工場の中で、もし助けを呼んだとしても俺の声は外に届かない。工場の周りには民家もないし、国道が近いせいでトラックの騒音にかき消される。

 絶望だ。
 きっと夕方まで気の済むまで殴られて、スルメみたいにくたくたになってやっと帰される。

「このまま帰されると思ってんなよ!」

 本人はこう言っていますけどね、奥さん。

 その場にあった適当な椅子をまな板にして、後頭部から重いきり鉄パイプで殴られた。いてえ。今までで一番いてえ。ひどい激痛に顔が歪んだのを見て、男が笑ったのが頭上でわかる。それもこれも鉄郎、あいつのせいだ。

 鉄郎は俺の幼馴染だった。小さい頃から何をするのも一緒で、中学まで仲が良かった。けど、俺は急に周囲が勉強を始めたことに気づいて、喧嘩をやめて鉄郎から離れた。赤い髪も黒く戻して、ピアスもやめた。タバコも捨てた。ナイフも売った。

 でも鉄郎はそうじゃなかった。俺が見捨てたことを恨んである日、俺の家にやってきた。夕方、あの日の太陽はひどく赤かったのを覚えている。
 あの時、鉄郎はこう言った。

『「お前が俺を見捨てても、俺はお前を見捨てねえ!」』

 思い出と重なるように、鉄郎が廃工場のシャッターを開けた。毬栗頭やその連れが目を見開いてその方向を見た。

「やっと来やがったなぁ、鉄郎!」
「待たせたなぁ、クソ野郎。とっとと拓也から手ェ離せこのハゲ!」

 禿げてねえ! と怒鳴った毬栗頭が鉄郎に掴みかかった。鉄郎は拳がくる方向を読んでいたのか、軽くかわしてそいつの顔に自分の拳を叩き込んだ。ヘブ、と何か言いかけたような言葉を残して、毬栗頭はその場に倒れ込む。鉄郎は、ボコボコになった俺の顔を見てニヤリと笑うと。

「ざまぁねえなあ、拓也」

 なんだか嬉しそうに言った。


即興小説トレーニングのお題
お題:見憶えのある太陽 制限時間:30分

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