音楽魔法の使い方

 僕は話すことができない。
 十年前に父と母を魔法開発中の事故で失った僕は、そのショックから未だに言葉を発することができない。驚いた時でさえ、声がくぐもって出てこないというのだから不思議で少し、情けない。

 じゃあどうやって人とコミュケーションを取っているかというと、紙とペンを使って筆談で話す方法がひとつ。もうひとつは、魔法を使って話す方法。
 おかげ様で、自分がどんな声だったかというのも忘れてしまった。

 黒いフードを目深にかぶり、暗くて湿った森の中を進む。城下から近い森に魔物の群れが出たと聞いて、討伐依頼をお願いされた。

 魔物の名前は、ボアウルフ。灰色の毛並みに犬の体の三倍ほどの大きさで、その牙も目も見たものを引き裂くほどに鋭い。僕はその討伐依頼に何人かの騎士とやってきたのだが――。

 僕は森の開けたところで、騎士たちが絶命しているのを見て口を堅く結んだ。

 二手に分かれてボアウルフの討伐を試みたが、王国の騎士として寄越された彼らの半分が、訓練だけで実践のない新米騎士たち。彼らを守りながら素早い獣たちと戦うことは容易ではなかった。
 亡骸は、口をつけられてはいない。すべて「遊ばれるように」嬲り殺されていた。

 ふと、木々の隙間から光る双眸と目が合う。
 一匹ではない。二匹、三匹と数が増え、ついに涎を垂らしながら前足を踏み出してボアウルフたちが姿を現した。僕は腰にかけた魔導書を手にして一匹の大きなボアウルフを睨む。やつの口元についた赤い染みが、倒すべき敵だと僕の頭に警鐘を鳴らした。

 こいつを倒さなければ、次の獲物はきっと自分だろう。
 グルルル、と唸り声が段々と近づく。ついに若い一匹のボアウルフが大きく僕へと目掛け、牙を剥き飛び掛かった。

 それより早いか否か。僕は眉間に皺を寄せて魔導書に魔力を注いだ。指先を淡く光らせると、書物は命を持つかのように所定のページを開いてくれる。声の出せない僕は、告げるべき呪文ではなく音を使って魔法を発動させてやった。

 ギャウ! とボアウルフは僕の周りを囲まれたシールドによって弾かれた。それは、ありきたりなハーモニカの曲。ジャン、と弾んだ音が鳴り響くと空中に刃が浮かぶ。それは次手に襲い掛かる獣に向かって、ドレミファソラシドを奏でる間に一頭ずつ脳天に突き刺さっていく。ついに頭とも思えるボアウルフが絶命したとき、他の獣たちは散り散りになって逃げだした。

 ふうっと額の汗を拭いながら、僕は息を整えた。


即興小説トレーニングのお題
お題:ありきたりな曲 制限時間:30分

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