SSまとめ(2020.12)

2020.12.28
「上の空、やめてくんない」
 後ろを歩いていた彼が言った。え……と気のない声で振り返った私は、恋人の八雲の暗い顔を正面から見ることになった。険悪なムードになるのは、今月に入ってもう五回目。傍から見れば、彼は私へのわずかな情で傍にいるとしか思えない状況だった。
「ごめん、何の話してたっけ」
「とぼけなくていいよ」
 八雲は乾いた笑いを吐き出すように言った。彼はもうすでにわかっていた。私が彼の中に、彼とは別の人の影を追っている事を。そのことで私が罪悪感を抱えている事を。
「ごめん」
 ごめんなさいと短く言った。上の空だったこと、とぼけたこと、あの人のことを忘れられていないことを、私は八雲に謝った。

2020.12.29
 今日は何か甘いものが食べたい。と、普段はケニアコーヒーばかり飲んでいる瞳子がこたつの上に頬を乗せて言った。
「何がいいっすかね」
 パートナーの誉が皿洗いをしながら、落ちてきた眼鏡を人差し指の関節でくいっと上げる。食事を用意するのはいつも誉の担当だ。瞳子は誉といる時だけ、ときどき甘えたような口ぶりで甘いものをねだる。いつもはクールで大人っぽい彼女が、自分にだけそんな姿を見せてくれる。それが何だか、くすぐったい。
「そうね……パサパサしてて、のどに詰まりそうな水のいるお菓子がいい」
「なんっすかそれは。饅頭とか?」
 ふはっと笑いを零して破顔した誉に「もっとおしゃれなものがいいわ」と、誉の笑顔につられるように、瞳子も微笑んだ。

2020.12.31
 ここまでか、とラズィーヤは言った。改善されない生活を変えたいと。直訴するために王に反旗を翻し、民と共に立ち上がった。だが、城に攻め込んで最後の最後に捕まってしまった。
「まさかまんまと作戦に引っかかるとはなァ」
 長い黒髪を一つにくくった、目の細い男がニッと笑った。体を地面に押さえつけられたままのラズィーヤは、顔だけを上げて愚王を見上げ、唇を噛んだ。騎士たちは彼女が抵抗しないよう、さらに上から押さえつける。その姿に王は機嫌を良くしたのかほう、と自身の顎髭を撫でた。
「なかなか見目の好い女じゃないか。お前を傍女に置くのもいい」
「誰が貴様の奴隷になど……ッ!」
 こいつに体を売るくらいなら、死んだ方がマシだ。声を荒げて牙を剥くラズィーヤに、鋭く冷えた男の声が彼女の心臓を貫いた。
「……逆らうつもりか?」

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