兄と弟

 耐えられると思った。
 腹違いの兄・ハンスの大きく振りかぶった一閃を受け止めようと、青年は反射的に自分の相棒を抜いた。ハンスのぎらぎらした瞳が、交わした剣の向こうに見える。両者一歩も譲れない、金属の擦れあう音が湿気た城内に響き合う。ここは、ハンスを捕らえた牢屋の外だった。

「よくも……エドワードぉぉっ!」

 吠えたハンスが、剣を押してエドワードを突き飛ばす。力は兄の方が上だった。地面に尻もちをついたエドワードは、はっとして体を捻る。自分が先ほどまでいた場所に、兄の剣が垂直に突き刺さった。

「……ッ」

 体勢を整えてハンスの攻撃を避けるも、畳みかけるようにやってくる兄の剣技にエドワードは歯を食いしばった。次に力業で来られたら、自分の剣が折れてしまうかもしれない。
 どうすればよかったのか。
 エドワードは狂気に侵された兄の姿に、心の中をかき乱されていた。

 兄のハンスと弟のエドワードはこの国の王子。腹違いではあったが幼い頃から本物の兄弟のように過ごしてきた。ところがいつからか。ハンスは出来のいい弟をねたむようになり、王政を狙う摂政に簡単にそそのかされてしまった。
 弟をいずれ亡き者にしようと、此度摂政と手を組み企んでいたのだ。その計画がエドワードと王にばれてしまい、兄のハンスは反逆と裏切りの罪に問われ投獄されたのである。エドワードは目の前の兄が己に剣を突き付けるまで信じられなかった。
 勉強を教えてくれた兄が。こっそり城の抜け出し方を教えてくれた兄が。婚約者を紹介するとき、優しそうに微笑んでいた兄が。

「死ねぇッ! エドワード!!」

 自分を殺そうと剣を振るうなど。

 ハンスが跳躍し長剣を正面から振りかぶった。滲む涙を振り切って、エドワードは震える両手を強く柄を握りしめて前へ駆ける。兄の大きな動きをかき分け、長剣を受け流す。しかし、強い打撃を受けすぎた剣先はガキンと大きな音を立て飛び散ってしまう。笑ったハンスが気づいた時には遅かった。エドワードが胸元から取り出した短剣を流れる手つきで兄、ハンスの心臓へと突き刺していた。

「あ……ああ……」

 両ひざを地面につけて、ハンスは崩れ落ちた。

「お前さえ……いなければ……」

 エドワードは、小さく笑う兄の顔にただ、悲し気な表情を向けるほかなかった。


即興小説トレーニングのお題
お題:鋭い決別 制限時間:30分

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