新しい家庭教師のモンドがやってくるのは、その日の午前の予定だった。
子爵令嬢であるジェニファーは、時計の針がひとつふたつと進むたびに大きなため息をついていた。彼女に家庭教師が用意されるのはこれで七回目。何度尊大な態度で追い返しても、両親は負けじと新しい先生を連れて来る。めげそうになるのは家庭教師か、ジェニファーか。ジェニファーは自室の窓辺からいつ馬車が見えて来るのかとそわそわしていた。
「大丈夫よジェニファー。今回も無事に帰ってもらえる」
そう自身に言い聞かせながら。
ジェニファーがこれほどまでに新しい家庭教師を拒むのにはわけがあった。一年前に結婚をして退職した前の家庭教師、ファリアの復帰を待っているからだった。ファリアは力のある教師で、特にピアノを教えるのが上手だった。何度も間違えては怒られる。その繰り返しで練習が嫌になったピアノも、ファリアは優しく指導してくれていた。ジェニファーの癖を指摘したり、弾きやすい曲を教え楽譜を用意してくれたりと、丁寧に寄り添ってくれたのである。
何と言ってもすごいのが、彼女の実際のピアノ演奏だった。力強く底力のある演奏も、繊細で儚く美しい曲も彼女は何でも弾ける。
かと思えば、うっかり服を前後ろ逆に着ていたりとお茶目な部分もあって、ジェニファーが彼女を尊敬するのにも時間はかからなかった。
「私の先生は、ファリア先生だけ。新しい家庭教師なんか、絶対にいらない」
眉を吊り上げ、酷く遠くを睨むジェニファー。そんな彼女の姿にはらはらしながら、メイドは紅茶を片付けた。