窓の外を見たら、地面が濡れていた。
真夏の日差しが地面に反射して、授業を受ける僕の目を刺激する。濡れたのは雨が降ったわけじゃない。美化委員の青子が毎朝、学校の花壇に水をやるからだ。
シャーペンを器用に回しながら、僕は今朝の青子を思い出していた。昨日は疲れていたのかすぐに寝てしまって、朝五時に目が覚めたのだ。
『……寝れねー。』
僕は青子が誰よりも先に登校していることを思い出し、冴えたついでにいつもより早く登校することにした。
「目が覚めたならさっさと学校に行きなさいよ」と母親にお尻を叩かれたことも理由だけど。
校舎の影から青子の背中をとらえた。
僕のことには全く気づかず、ホースで水遣りをしている。自分より背の高い向日葵と、まるで会話をしているように思えた。
『おはよう』
『……えっ? お、おはよう。どうしたの、こんな早い時間から』
普段は時間ギリギリになって駆け込む僕を、見開いた目で見て来る青子。まあ、驚くのも無理はない。
『昨日、帰ってすぐに寝ちゃったんだよ、おかげで目が開いてさ』
『体育の時間、男子はうちのクラスと合同でサッカーだったもんね。楽しそうだった』
僕は頷いて肯定した。青子と僕は同じクラスじゃない。小学校の時から同じクラスだったくせに、高校に入って別々のクラスになってしまった。だから今みたいに、二人だけの時じゃなければ話せない。それが僕には少し、
『なんか、久しぶりだね』
『え?』
『こうやって、二人で話すこと。』
青子に心を読まれたかと思った。久しぶりで寂しいと思う心を、青子に読み取られたんじゃないかって。
『そうだったっけ』
慌ててとぼける僕に、そうだよと青子は笑う。青子の隣りにたくさん並ぶ向日葵が、彼女の笑顔を眩しくさせた。
あれ、青子って、こんなに可愛かったっけ。
そんな風に思った瞬間、心臓がドッと跳ねた。慌てた僕は『ホース貸してよ、手伝うし』と早口で捲し立てて、青子が握るそれに手を伸ばした。
『ちょっと待って、まだ水出しっぱなし……きゃっ!?』
『うわっ』
僕がホースに手をかけたせいで、暴れるホースが水を勢いよく僕と青子に水を被せた。水が陽に当たって、きらきら、きらきらと光り弾ける。まるで、ピーターパンの魔法の粉が降りかかるように。
本当に魔法の粉だったのかもしれない。
だって、
笑った彼女がとてもきらめいて見えたから。