SSまとめ(2021.02)

「おめでとうございます! 一等の景品はグアムへの旅です!」

 鐘の音と共に、俺は大口を開けて「マジか」と呟いた。動揺で震える俺の手を、赤い法被を着たおっさんが嬉しそうに固く握る。どうぞ! と満面の笑みで渡された景品のパネルを高々と掲げ、俺は喜声を上げた。
 運がいい。
 この時はそのくらいにしか思っていなかった。

「えっ、俺がですか?」

 呼ばれて何事かと思えば、部長より昇進の知らせ。その後も、密かに好意を抱いていた同僚から飯に誘われ、いよいよ俺は舞い上がった。

「ついてる。ついてるぞ……」

 だけど俺は、喜びに浮かれて階段を踏み外した。その時に気づいたんだよ。
 ついてきたのは運じゃなくて、死神だったって。

上記は300字SS「運」の別案です。


 北海道に修学旅行へ行った時、木々の色に驚いたことがある。五月の初め頃。まだ肌寒い北海道で、腕を摩りながら眺めた森や山は、私が見てきたものの色と違っていた。今思えば、植えられている樹が違えば、そりゃあ色も違うだろう。そう思うけれど、その美しい鮮緑に、白樺の色に、私は対照的な四国の山々を思い出さざるを得なかった。

 四国の山の色は、青い。
 いや、どちらかといえば藍色に近いかもしれない。海の色が映ったのか、空の色が映ったのか。わからないけれど、深い深い藍の山々に、子供だった私へ祖母がかけてくれた言葉が蘇る。

「嫁に来た時、私は四国の山の色を好きになったんよ。四国の山は、綺麗だね」

 山などどこも同じだろう、そう思っていたのに。

SS 「山の色」

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