湿気を帯びた六月の夜半。草むらを抜けたそこに建つのは、廃れているのか生きているのか見極めが難しい教会。そこへ、足音を立てぬように忍び込む一人の男がいた。
黒い服を身に纏い、顔はわからぬようにぐるりと布で覆われている。後方へ片手で合図すると、闇の中から仲間と思える男達が次々と現れた。
教会は、誰人も拒むことはできない。
その規則に基づき、扉は不用心にも常に開いている。しかし神の目から見ても、男達が信心深いとは思えなかった。ミサに来たとも、ましてや懺悔でもないだろう。
どこからどう見ても、カタギではない。悪事を企てる賊そのものだった。
「一番奥にあるはずだ」
最初に教会の様子を窺った男が言った。他の男達は同様に頷き、足早に教会の奥へと走る。並ぶ椅子を横目にオルガンへと続く道を進むと、その手には美しい宝玉を抱える女神の銅像があった。まるで子を抱くように、愛おしそうに包んでいる。その宝玉の価値を、男たちは知っていた。
「……へっ、こんなに簡単に見つかるとはなぁ」
「見張りの奴らに悪い。さっさと頂いてずらがるぞ」
わかってます、と一人の男が嬉々としてその宝玉に手を伸ばした。その時。
「こんばんは」
男達の背後から、見知らぬ女の声が聞こえた。男たちが一斉に振り向くと、細く、背の高い女が一人立っている。この教会の修道女と思わしきシスター服に身を包み、口元には微笑を携えていた。
男達は僅かな焦りと、警戒を露わにして腰にかかるナイフに手をかける。いつからいたのか、扉の前にいた見張りはどうしたのか。その微笑すら薄気味悪く思うほど、窓から差し込む月の光が彼女を照らしていたからだ。
こつり、と音を立てて女は一歩前に出る。
「お前……ただもんじゃねぇな」
頭とも思える男の一人が言った。
その言葉に、女はにたりと獰猛な笑みに変えると体を苦の字に曲げて大きく笑う。
「今日は月が綺麗ですからね。ちょっとくらい、悪者を食ったって、神様もお許しになってくれると思うんですよ。ええ」
そうして笑いがぴたりと止まると、女の腕が毛むくじゃらへと変わる。曲げた背中からは翼が布を突き破り広げられ、口元に大きな牙が現れた。
「美味しそうだなぁ……」