魔女の道具魔女の道具
「探していました。ああ、やっと貴方に会えた」
黒いスーツを着こなした、ひょろ長い男に声をかけられた。しかも、鬱蒼と木々が茂る森の中で。
男は今にも泣き出しそうな顔で私を見つめている。長いあいだ魔女をやっているが、このような来客は初めてかもしれない。
おかしいな。私には長年会えずに涙ぐむようなボーイフレンドはいないはずだが。
私がどうしたものかと立ち尽くしていると、足取りも覚束無い彼は目の前で膝をつき、そして涙を流しながら、
「貴方がこの国で有名な魔女、セイラ様だと聞いてこの森に来ました。お願いです。私の愛する人を助けてください」
そう言って、涙を流しながら嗚咽を漏らし私に懇願し始めた。
ははあ。
どうやら彼は、街のうわさを聞いてここにやって来たようだ。
うわさというのは、アレだ。私、セイラという魔女は「自分が作った道具で、願いを叶えてくれる」というものだ。
まあ、おおむね間違ってはいない。
私は彼がどのような願いを求めてこの森に来たのか尋ねることにした。
「そうだよ、私がセイラ。この東の森の魔女。貴方の妹さんを、どう助けて欲しいの?」
男は顔を上げると、涙に濡れた顔を喜色に変えて答えた。
「実は妹は、もう何か月も過労で寝たきりになっているのです。笑顔もなく、ご飯もぜんぜん食べてくれません。お願いです。妹が元気になるような道具をください」
「道具ねぇ……私の作る道具なんかより、病院に行った方がいいと思うけど?」
男は困ったように肩を落として、首を振った。
「うちは貧乏なので、薬を買うお金が無いんです。だから私は貴方にお願いをしに来たんです」
私はため息をついて承諾した。タダなのは癪に障るので、今持っている食べ物を分けてもらうことにした。
男にはしばらく待ってもらい、私は家から持ち出した青色の液体が入った小瓶を渡す。
「それを飲ませば、たちまち元気になるでしょうね」
「ありがとうございます! ありがとうございます! これで妹が元気になれば……」
私は男が最後に言った言葉を聞き逃さなかった。
「また俺は働かなくて済む……」
男はそう言ってニヤリと笑うと、街の方へと帰っていく。やれやれ、やっと帰って行った。
私は家の中に戻って椅子に座ると、ふうと一息ついた。……そういえば、彼にひとつ言い忘れたな。
あの小瓶は効き目が強すぎるから、全部飲ませると人を殺しかねない化け物になるよ、って。
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