私の小説新人賞

 私が初めて新人賞を受賞したのは、十六歳の時だった。小説のしの字もろくに知らないくせに、周りよりほんの少しだけ文章を書くことや伝えることが得意なだけの、生意気な少女だった。

「紬実(つむみ)、すごい! 本当に受賞しちゃうんだもん。やっぱり才能のある人は違うなぁ」
「ふふっ、まあね……」

 他人から褒められることの少なかった私は、周囲の反応が百八十度変わったことで有頂天になっていた。親からも褒められ、友人からも褒められ、教師からも褒められ――。いい気分にならない子供などいるだろうか。そんな子供が居たならば、よほど謙虚な性格か、すでに大人びているだけ。そうだろう?

 二回目に受賞したのは、大手出版会社が出している小説雑誌「空海」が決める、その年最も売れた小説に贈られる賞だ。この時、私はすでに小説を生み出し続けることに疲れ果てていた。

 結婚し、子供もできて家事と育児の傍らにパソコンに向かう日々に体力も思考も追い付かなくなった。伝えたいことも少なくなってきて、本を出すどころか一小節書き上げるだけでも精一杯だったのだ。
 それでも、書き上げた。
 またもう一度、あの言葉が聞きたかったから。

「紬実先生、新作読みました! すばらしかったです」
「紬実先生、今回空海賞を受賞されたお気持ちはいかがですか?」
「紬実先生、家庭を持ちながらも書き上げたその精神や、工夫されたことを教えてください」
「そうですね……」

 あの生意気な年頃に頂いた新人賞。その時の、なんともいえない高揚感と達成感。そして培った自信。
 私の中で、小説新人賞は今も生き続けているのだ。十六歳の私のままで。

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