水野の生き方

 同期の水野を見ていると、どうもイライラしてしまう。
 朝は出社時刻ギリギリに事務所にやってきて、帰りは皆が残業している中でも空気を読まずに帰ってしまう。勤務態度が真面目かと言われればそうでもない。長年勤務しているにも関わらず、覚えた事はすぐに忘れていき、挙句後輩に「これも勉強」と抜かし仕事を押し付ける。
 多分、小手先は器用なのだろう。自分がしなければならない仕事は午前中に片付けて、昼からは会社のパソコンを使ってやらしいサイトを覗いたり、ツイッターのタイムラインを追いかける。先日は、オークションの発送手続きをしていた。

「ったく、いいよな水野は。毎日楽できてさ」

 ある日の昼食。不満に思った俺は水野と二人きりになった折にそう零した。たぶん朝から部長にこっぴどくやられたせいだと思う。水野は不思議そうに俺の顔を眺めると、軽く笑ってそうかねぇと答えた。

「楽だよ。俺はお前みたいな、自由な生き方をしたかった」
「どういうのが自由なんだよ」
「何ていうんだ、賢いっていうのかな。自分の好きなように仕事をして、好きなことしてるカンジ」

 ふうっとため息をついた時。水野は食べ終わったコンビニ弁当をナイロン袋にしまい込むと、立ち上がって俺を見下ろした。

「責任がないってのも、寂しいもんだぜ?」

 しょせんは隣の芝生が青く見えてるだけだ。水野は乾いた笑いを零して、ごみ箱の方へと向かって行った。

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