そうは言うけど

「それはつまり、マイナーと呼ばないのでは……」
 文化祭の出し物を決める時間、学級委員の野崎はメガネの端を持ち上げてぼそっと呟いた。文化祭と聞くとはしゃぐくせに、出し物を決めるとなると一切非協力的になるクラスメイト達が憎らしい。そんな中で、唯一意見を出してくるのが坂上だった。ピクニックの企画も、社会科見学の行き先も、運動会の競技でもそう。自分が面白そうだと思う事はバンバン挙げて行く。その発想は普段大人しい坂上の姿とは全く想像もできないほどだ。ただちょっと迷惑なのは、挙げるだけ挙げておいて、決定にまで至らないことである。やる気のないクラスメイト達が反応してくれないため、ユニークな企画も企画倒れしてしまう。
 熱意のこもった視線を野崎に向けながら、坂上は椅子がひっくり返りそうな勢いで立ち上がり抗議した。
「いえ、この企画は皆さんに絶対に賛同いただける素敵な企画だと僕は思っています!」
「いやいや……そう思ってるのは坂上君だけだし」
「どうしてですか! メイド喫茶なんて、学園祭の出し物じゃ王道の王道じゃないですか!」
 鼻息荒く物言う坂上をよそに、クラスメイト達が唇を尖らせる。
「だって、これ全員が着ても、他のクラスの人は絶対来てくれないから……メイド服だなんて」
 ぴらっ。クラスメイトの一人が、坂上の持って来た企画のプリント裏をめくった。可愛らしい女の子がお盆を持って、メイド服姿でウインクまでしてくれている。実際に女子がしてくれたなら、きっと自分たちもテンションが上がったに違いない。好きなあの子のメイド服姿なんて、一生に一度見られるか、見られないか。
「こんなところでメイド喫茶してもなあ……楽しくないよ」
「そんなことないですよ! 絶対に楽しいですって!」
「そうは言うけど……」
 大きなため息をついて、野崎は坂上に言った。
「だってここ、男子校でしょうが」

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