300字SS「祈る」

 薄暗い病室の中で、心臓の鼓動を知らせる音がピッ、ピッ、と静かに鳴っている。その真ん中、ベッドの上で友人の裕子は大きく息をしながら懸命に生きていた。
 私より肥えていた身体は私の半分になった。気丈な彼女は、まるで見るなとでも言うように片腕で顔を隠して胸を上下していた。
「裕子ちゃん」
 祈るように、声を絞り出して裕子を呼んだ。危篤だと聞き仕事から飛んできたが、私以外誰も来ていない。馬鹿野郎。
 私は座り込んでその手を取った。肉厚な指が、まだ温かかった。
 なんで。
 私は泣きながら、どうして彼女が死ななければならないのか考えた。けどどうしても見つからなくて、また泣いた。

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