one way

 ≪3番線に電車が参ります≫

 ホームに流れるアナウンスを聞きながら、小さく口を開けてあくびをもらしつつ、挙動不審にならない程度に毎朝ここで見かける人を探す。

 その人を初めて見かけたのは、去年の5月頃。なんとなく、いつもより1時間も早く家を出たら、その人がこの駅にいた。私と同じように眠そうにあくびをしながら、友達らしい男の子と2人。ただそれだけの姿に一目惚れしたのだ。

(あ、今日もいた……)

 ストーカーみたいだけど、この人の顔を見たくてこの時間の電車に乗っている。でも、それ以上に近づこうだなんて思っていないから、どうか許してください。と心の中で誰にでもなく謝罪をして、その横顔を盗み見る。

(今日もかっこいい、1日がんばれる〜〜。くろさん、ありがとうございまーす)

 いつも一緒にいる友達らしい子が、“くろ”と呼んでいたのが何度か聞こえたので、私も心の中でこっそり呼ばせてもらっている。
 何食わぬ顔で、そんなことを考えてる人間がこんなすぐ近くにいると知ったら、きっとドン引きされるに違いない。しかも1年も前から。
 とは言え、さすがに毎日1日も欠かさずに、という訳じゃない。毎日でも会えるものなら、会いたいけれど、当然くろさんが居ない日というのもあったし、私がいつもいつもこの時間に来られるほど朝に強くないというのが一番の理由。残念ながら。

 音駒の制服を着ているから、音駒に行った友達に聞くという手が無いわけではないけれど、いつも駅のホームで一方的に顔を眺めているやつが友達になりたいなんて、絶対に気持ち悪いと思われるに違いない。
 ストーカーじゃないけど、自分でも自分がストーカーみたいだと思ってしまうもの。
 そもそも、ストーカーはみんな自分がストーカーしている自覚がないんだから、私もくろさんからしてみれば立派なストーカーなのかもしれない……!

(悲しいこと考えるのはやめよう。別に彼女になりたいわけじゃないし!)

 何はともあれ、今日も朝から顔を見られたんだから、1日のいいスタートだ。


* * *


「……小テスト」
「どうだった、って聞くまでもない顔してるね」
「赤葦君も聞くまでもない顔してるね……」

 うきうき気分で登校したものの、1時間目まさかの数学で小テストなんてことをされて、気分はどん底まで落ちてしまった。
 数学だけはどれだけ頑張っても点数が付いてこないのが中学の頃からの私の悩みだ。これは、もうそういう風に定められた運命なんだと諦めるしかないと心の中で小さく唱える。目の前で余裕の顔を浮かべている赤葦君を心底凄いと思う。

 バレー強豪校のうちで2年生にして副主将を務める冷静沈着なセッター、勉強の方の成績も優秀。顔までかっこいいのだから、女子にモテないわけがない。

(天は二物を与えず、なんてことはないだなぁ……)

「すごい目付きになってるよ。教えようか、今度」
「え、やだ。いいよ。赤葦君のファンが怖いからやめとく」
「一瞬たりとも迷わずに嫌だって言われると傷つくんだけど……」
「ごめん。でも、部活も忙しいんだし、いいよ。友達に聞くし」
「まぁ、苗字さんがそう言うなら……」

 傷つくだとか何とか言っているけど、いつものポーカーフェイスというか、無表情というか、赤葦君とは仲が良いつもりだけど、その辺はまだよく分からないなぁと思う。

 あまり雑談とかしないタイプなのかな、なんて思っていたけれど、そんなこともなく。わりとよく話しかけてくれるし、

「そういえば、今日は来るの早かったね」
「あ、うん、今日は早く起きれたからね!」
「あぁ、だから。すごい機嫌よく登校して来たから、何かいいことあったのかと思った」
「え、うん、いいこともあったけど、そんなに分かりやすい? 私?」
「まぁ……分かりやすいんじゃないかな」

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