愛しさが溢れる

「あー……お前さ、今日がスガの誕生日って……知ってる?」

 いつも通り部活を終えて、幼馴染である大地と二人で帰っている時のこと。

 大地の口からとんでもない言葉が発せられ、私の身体にはまるで雷でも落ちたかのような衝撃が走った。
 ついでに手に持っていた携帯を落とした。

「……聞いてない。初めて知った」
「やっぱり……」
「え、何なの、なんでスガは何も言わないの!? なんで大地は今言うの!? なんで私は知らないの!?」

 ありえないありえない、なんで彼氏の誕生日に私は幼馴染のしかも男と一緒に並んで仲良く下校とかしてんの。意味わかんない。なんで私はスガの誕生日すら知らないんだ。彼女としてそれってどうなんだ。

 脱力して、しゃがみこむと落としたままの携帯がLINEのポップアップ通知を表示した。

(気を付けて帰れよって……、スガ、こんな彼女でいいのか、本当に)

「おい、大丈夫か? 携帯も」
「うん、大丈夫だった。ちょっとスガに電話する。そんで、スガのとこまで行ってくる」
「あー……危ないからって言いたいとこだけど、気を付けて行って来いよ」
「ありがと。まぁ強いて言うなら誕生日の情報はもっと早く欲しかったけどねー!」

 知らなかった自分を棚に上げて、スガに電話をかけながら走り出した。今までLINEをしてたからか、たった1コールで電話の向こうからはスガの声が響いた。

『もしもし? もう家着いた?』
「まだ! ってか、今スガのとこ向かってる!」
『え!? 何で、大地は?』
「1人だよ! お邪魔虫とはお別れして来たから心配ならスガも私のとこに来て!」
『当たり前だべ!? 今どこ!?』
「あの、あれ! 角のポストのとこ! うおわぁっ!!」
『なまえ!?』

 ものすごく色気もなにもあったもんじゃない声を出しながら躓いたら、電話の向こうでどうしたって叫ぶスガの声がすごく大きくなってびっくりした。
 っていうか、私としてはもう一つびっくりした。

「スガ、なまえって言った」
『え、そうだっけ? てかなんで、また急にこっち向いてきたの?』
「そうだし。いつも苗字って呼ぶくせに……」
『いや、まぁ……そうだけど……。どこまで来た?』
「もう見付けた」

 いつもの分かれ道から少し行ったところでスガを見つけた。
 見付けたことで足を緩めた私とは真逆に、スガは携帯を耳にあてるのをやめて、私の目の前まで全力疾走をした。

 そんなに急がなくても、こんな色気のない女を襲うような人いないよ。と笑って言うと、割りと本気のトーンで怒られた。

「そうやって気を付けなくて、本当に襲われたらどうすんだ! 色気あるとか、ないとか、そんなのはなまえが決めることじゃないんだよ!」
「は、はい」
「なまえがそんなこと言ったって、俺にとっては世界で一番可愛いし! 色気もあるし! もうほんと! いや、あの……」
「スガがそんなに私のこと好きだって知らなかった」

 恥ずかしいと言いながらヘタりこんでいくスガが今までで一番愛おしく思えた。

 一ヶ月前、スガに告白された時。いつもバレー部で一緒だし、クラスも一緒で、気が合うし、好きか嫌いかで言えば好き。そんな程度の気持ちで私はスガと付き合い始めた。

 付き合い始めてからのスガは今までと変わりなくて、大層に彼氏面することもなく、たまに大地の居ない帰り道に手を繋いで帰るくらい。束縛されることも、ベタベタすることも望んでなかった私にとって、スガはまさに理想の彼氏だった。

「ねぇ、どうして今日が誕生日だって教えてくれなかったの?」
「前に記念日とかいちいちめんどくさいって話してたの聞いて、言ったら、祝わないといけないって義務みたいに思われるかと思って……」
「記念日と誕生日は違うじゃん、バカ」
「えっと、すいません」
「私の方がごめん。彼氏の誕生日も知らないとかないよね、普通に」
「なくないよ!」

 思い切り否定するもんだから、思わず笑ってしまった。きっと誰に聞いても知らなかった私が悪いって言うだろうに、この人は全力で私を守ってくれるんだ。

「ねぇ、スガ。好きだよ」
「え、」

 そういえばスガに好きって言うの初めてかもしれない、なんて思いながらキスをしたら、スガの大きな目が更に見開かれた。
 今日はスガの色んな顔が見られて楽しい、可愛い、愛しい。

「なん、で……なまえからしちゃうかなぁ……」
「スガがね、愛しくてしかなかったんだよ」
「そんなこと初めて言ったべ? 嫌われてるとは思ってなかったけど、俺、正直そんなに好かれてる自信もなかったから、やばい、嬉しい」
「スガの嬉しそうな顔が見られて、私も嬉しい」

 もう一回してもいい?
 遠慮がちに確認をしてくるスガが愛しくて、確認されたのも無視して、もう一度私からキスをした。ちょっと、と何か言いたげだったけど、眉尻を下げて微笑むと今度は確認せずに優しく触れるキスをくれる。何度も、何度も啄むように。

 照れ隠しに二人して笑って立ち上がると、そういえばここって普通に通学路じゃんと焦った。もう暗いし、誰も通んなかったし大丈夫だよね、なんて言いながら手を繋いで近くの公園を目指して歩き始めた。

「誰かに見られてたら、俺、もうあの道通れない」
「いや、私だって一緒だからね、そんなに家離れてないからね」
「でも、なんかそれ以上に幸せすぎてどうでもいいかも」
「じゃあ、いっか」
「プラマイゼロってか、プラスの方が断然多い」

 笑いながら話すスガの顔は、いつも見ているはずなのに、いつもと違うように見えた。
 付き合う前も、付き合ってからも一緒にいたのに、私はスガのことをあんまり知らなかったんだな。これから、たくさん知っていきたいな。

 公園の入口から一番近いベンチに座った。夜の9時ともなれば私たち以外には誰もいなくて、いつもなら怖くてやだとか思ってたけど、今日は隣にスガが居るから夜の公園も悪くないなんて思う。

「あのね、私にとってスガって理想的な彼氏だったの」
「えっ、本当に?」
「うん。でもね、さっきスガが誕生日言わなかったのは私が記念日とかめんどくさいって言ってたからだって言ったでしょ」
「あ、うん……」
「スガは、この一ヶ月楽しかった?」
「え!? もちろん、楽しかったけど……なんで?」

 きっとスガの言葉は嘘じゃないと思う。でも、100%本当でもないんでしょ? スガとは三年間同じクラスで、色んな話をしたし、記念日の話みたいにスガと直接じゃなくても私が言ったことをスガはたくさん聞いているはず。

「スガは私の好きなように合わせてくれてたんでしょ? 優しいから」
「……ただ、なまえに嫌われたくなくて必死だったんだよ」
「ごめん、ありがとう。でも、これからはスガも普通にしてよ。私にばっかり合わせなくていい。私もスガに合わせたい」
「あぁ……もう……嬉しすぎて死にそう……」

 どうして今までちゃんとスガのことを見なかったんだろう。こんなにも可愛い人だったんだ。こんなにも私を想ってくれていた。スガが私を想ってくれていたように、これからは私もちゃんとスガのこと見て、想いたい。

 今気付けて良かった。今日のことがなかったら、私は別れるまで気付かないかも、もしかしたら別れても気付かないままだったかもしれない。

「スガ、誕生日おめでとう。これからも私と一緒にいてくれる?」
「えぇっ当たり前っていうか、俺の方こそ一緒にいてください!」
「敬語!」
「やべぇ……俺、必死すぎてキモいべ……」
「私は好きだよ」
「俺も、好き」

 繋いでない方の手で私の髪を丁寧に耳にかけて、目でキスしたいと訴えている。今度は私から動いたりしないで目を閉じると、スガはもう一度好きだと言ってキスをした。







「ねぇ、何かしてほしいこととかある?」
「俺のことも名前で呼んでほしい……とか」
「俺もって……あ、大地か」
「ほんとはかなり大地に嫉妬してたんだよ……幼馴染みだから、しゃあないって思っててもさ……。明日からは俺が家まで送っていい?」
「孝支が疲れないなら。あ、そういえばさ、すっごいナチュラルになまえって呼んだよね。いつも苗字って呼んでたのに」
「うっ……それも、ほら、大地……。本当はずっと名前で呼びたかったんだよ……」
「やばい、孝支が可愛すぎて発作起こしそう」


スガさん、お誕生日おめでとう!
20160613

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