腕時計を見れば夜の九時を越えていた。
異能力者を巻き込み探偵社総動員で駆り出された事件は終息し、今頃打ち上げにでも行っているところだろうか。なんて呑気に考えながら私は空港の掲示板に目を向けた。何故私だけが空港にいるのか、それはこの事件に私は関わっていないからだ。詳しく言えば、私はこの事件が起こる前に有給を取り「ちょっとバカンス行きます探さないでください」なんて生意気なことを福沢社長に言った。「探さないでください..............そう言って戻ってこない奴は多い」「いや、別に探偵社から姿を眩まそうなんて思ってないですよ」「それはそうだろうな、姿を眩ますなら探偵社なんて言わずこの世界から存在ごと消え去りそうだ」「....社長、私をなんだと思ってます?」「皆と同様大事な社員だと思っているが言い方を変えるなら....お前は打つ手がなくなった時の切り札だ」「大役だなぁ」「不満か?」「.....私、社長のそういうとこ好きですよ」「知っている」なんて会話をした。

行先は【          】。
俺がこれから行く場所は、誰にも伝えなかった、校長にすら。
そして今日が出発だということは生徒の誰にも教えなかったし、もっと言えば俺がユニヴェールを辞めることも、誰にも言わなかった。隠したいと思ったわけじゃないが、言うほどの理由もないと思った。俺がやりたいことをやるにはユニヴェールでは成しえなかった、だから違う場所へ行く。場所が変わる。それだけだ。

「はは、怒られるかねえ」

何も情報を与えなかった俺に直接「怒ることができる人」なんていないだろうけれど、いずれ俺がいなくなったことが広まれば、脳裏に俺を浮かべて怒る人はいるだろう。まあ、許してほしいなんて思っていない。できることなら、俺なんか忘れて自分の道を進んでほしい、俺がそうしたように。

「まぁ、俺も相当酷いんだろうが」

別に、ユニヴェールが嫌いだったわけじゃない。ユニヴェールにいたみんなが、嫌いだったわけじゃない。楽しいことだってあったし、成長できた部分もあったとは思う。ただ、俺は別の場所を選んだ、それだけどのこと。思い出は過去の経験として俺に生きている。だから、縋る程のものではない。

出国審査を抜けて、あとは搭乗を待つのみとなった俺は、じっと外を見てみた。滑走路の向こうに東京の、日本の街が光っている。俺は、あの光を越えていく。寂しいなんていう気持ちはなかった。

連絡先は全て消した。電話番号も変わり、SNSのアカウントも全て削除して、他に連絡が取れそうなものも全て断ち切り、今俺に連絡を取る方法は何一つない。渡航の話を校長に唯一した時に、連絡先くらい何か残せばいいだろうに、と言われたが俺は首を振った。

「連絡先なんてなくたって、縁があればどこかで再開しますよ」
「縁って、お前な......」
「俺は、それくらいの方が丁度いいんでね」
「.....ほんと、お前らしいな最後まで」
「そりゃどーも」


会話を思い出し、思わず小さな笑みがこぼれた。こんな自分勝手な俺の意思を尊重し、誰にも何も言わずにいてくれた校長には感謝している。もちろん、俺と共に過ごしてくれた学園の生徒にも感謝はしている。ただ、俺は俺の行きたい場所に行くし、やりたいことをやるし、何にも縛られず自由に生きたい。だから、

「悪く思うなよ」
理解しろなんて言わない。でもこれが、俺のやり方なんだ。

アナウンスが流れる、どうやら搭乗を開始したらしい。このゲートを潜れば、俺はもう日本にはしばらく戻らないだろう。それで、いい。

さて、ーーーーーーー次の|世界《ステージ》に、行く時間だ。