「ん…ぅ」

息が出来ない。苦しい。目を瞑りながら限界だと彼の胸を叩けばその両手を邪魔だと言わんばかりに片腕で押さえつけられた。

次第に混乱する頭。酸素を欲する身体。だめだ、倒れる限界だと口を開いて酸素を取り込めば、狙っていたかのように舌が入ってきた。

「!?」

途端に深くなるそれに目を見開けば、安室透は熱の籠もった目で私を見ていた。ぞくり、と何かが駆け上がるような気がした。

「好きだ、どうしようもないほどに」

追い打ちをかけるように彼は言う。


「全てを知っても僕の気持ちは変わらない。どこの世界にいたって僕は君に恋をするだろう、だから」


僕を、好きになれ


そう言った彼はいつにも増して真剣で、私は思わず見惚れてしまったんだ。

ーーー

「嘘だ…」

惚れてしまったかもしれない。あの男に。何ということだ…冗談よしてくれ自分。


「…っ、」

思い出されるのはあの目と、あの唇。全てを喰らい尽くすような深いそれを前に平然としていられるほど冷静ではない。あれから安室透、バーボンが視界に入ると気が気でなくなる。

私は、あいつが、好きなのだろうか?
分からない。分からないが、そもそも立場的に公安とFBIはありか?ありなのか?


「やだ!ありに決まってるじゃない!!FBIと公安ライバル同士の禁断の恋!!素敵〜〜〜」
「……オメェ、声に出てるぞ」
「うぇええっ!?」


急に現れたのは工藤新一の母親と工藤新一、もとい江戸川コナンだった。……え?なんで!?

「悪いな、オメェのことを話したら母さんが…」
「FBIの彼からも貴方の事は聞いているわ!無謀な賭けにでる世話の焼ける後輩だってね!」
「それ思いっきり貶されてますよね私」
「違うわよ〜〜彼なりの褒め言葉でしょ!!」
「ないです」


というかどっから来たんだ。いや、その前に声に出してるってやばくないか。無意識怖い。これも安室透効果か。どうしてくれるんだ。


「あ、初めまして!私は新ちゃんの「お母さんですよね」

今更だ。

あら知ってるの〜?そういやさっき新ちゃんが言っちゃったか〜〜でも嬉しいわ〜!!とご機嫌が大変よろしい工藤母にこちらこそはじめましてと一応頭を下げる。予想はできたが実際に見るとこの人のテンションは凄まじい。って、いや、それどころじゃない。何でこのテンション高いお母様は初めましてな人の恋話で盛り上がってるの?どういうことなの?


「やだ〜もう素敵じゃない!FBIと公安、立場に揺らぐ秘密の恋!ライバル同士だった二人が、とある事件で偶然任務が被り、紆余曲折あって急接近!それでも踏ん切りがつかない彼女に彼が最後の箍を外しにかかる!キャアアアア照れるわ〜〜〜!」

妄想か。妄想なのか。妄想にしては私と安室に当てはまりすぎているんだが。…どこまで知っているのだろう。

「…悪いな。色々と」
「ちょっと!新ちゃんどういう意味よ!私の妄想の筋書きは完璧でしょ!パパもミステリーばかり書かないで恋愛ものを書けばいいのに!」


妄想らしい。それなのにほぼ核心をついてくるなんて、工藤母恐るべし。侮れない。いや、そうじゃなくて。

「でもね海吏さん、チャンスを逃しちゃダメよ」

顔よし声よし性格よし、おまけにエリート。そんなの他の女が放っておくはずないじゃない!と工藤君のお母さんが力説する。

「ほら、例えば彼!」


そう言って視線を向けた先にいた人物に私とコナン君は一瞬固まった。幻覚だろうかと目をこするも何も変わらない。見えるのは、スーツ姿の可愛い女性と私服を着た安室透だった。