ある日。帰宅する私を安室さんが送り届けると言い、車に乗せてくれた。普段は何かしら話題があるのに、今日は静かだった。いや、私がそうだっただけかもしれない。
すぐ横に彼がいる。するとどうも普段通りにしていられない。何か問われても耳に入らず生返事になってしまう。


だから、気付かなかった。


「え?」
「…え、何」
「冗談で、僕の家に来ますかと気いたら…貴方がうん、と言うから…」
「え?…え!?あ、その、」


顔が赤くなる。鼓動が早くなる。もう誤魔化しきれない自分の気持ちが、すぐそこまで溢れそうになっていた。

「ああ、いいですよ気にしないで下さい。冗談ですから」

無理は強いたくない、僕の気持ちも押し付けたいわけではない、そう言って笑った顔が何だか切なそうで、気付けば言っていた。


「絶対にありえないと思っていた。けれど貴方は私の心に入ってきた。異世界という壁をものともせず、貴方は私を受け止めた」
「…」
「…狡いです。好きに、なってしまったじゃないですか」

一定の速度で走っていた車は曲がり角を曲がりゆっくりとスピードを落としていく。街灯が光る住宅街の横に車が止まった。一言も話さない彼に不安になりちらりと視線だけ向ければ、彼は片手で自身の顔を覆っていた。


「…海吏」

急に呼ばれた自分のそれにびくりと肩が跳ねる。

「…これ以上、僕を惚れさせないでくれ」

苦しげに呟かれたそれは私の胸を苦しめるには十分だった。想いに応えられない壁が無くなった今、拒絶する理由も受け入れない理由もない。


「安室…いや、降谷さん。私と付きあっていただけますか」


「…っ、狡いのは、お前だろ…!」


次の瞬間、助手席が倒された。