「おい」

ある日、組織の狙撃場にいた私はジンに呼び出された。仕事だ、という彼にターゲットを聞けば、信じられない返事が帰ってきた。

「FBI捜査官、如月海吏」
「…」

私……なんだけど。

「あの赤井秀一の部下にして切れ者だ、だがどういうわけか最近姿を現さず居場所も不明」
「ならどうして」
「疑いは罰せよ…奴は赤井経由で俺達のことを嗅ぎ回っている可能性がある…上手く、匿われてな」


ジンは話している間、ずっと私の目を睨みつけていた。もしかして、既に勘付いているのだろうか、いや、ならばこの場ですぐに殺すだろう。なら気付いていない?それとも逃げられない状況下を作り私の本性を炙り出そうとしているのだろうか。
しかも、上手く匿われてな、という最後の言葉。ひょっとすると、ジンは確信めいたものを持っているのかもしれない。


背中に冷や汗が伝った。

「3時間だ」
「え?」
「3時間で始末しろ」


居場所も不明、と言っているのに与えられた時間はたったの3時間。これはいくら何でも無理だ。所謂無理ゲーという奴だ、いや待て。そもそも私が私を始末するって、それ思いっきり自殺じゃねえかよ、どうすんだよ、なんて取り乱せるはずもなく、私はただ静かに頷くだけだった。下手な動きをしたら、即刻ジンに撃たれるだろう。


だが、3時間で何をどうしろというのだ。


とりあえずだ、何がどう転んでも情報が漏れないように、私に関する情報を全て削除しておいた方がいいかもしれない。咄嗟に思い浮かんだのはデータの削除だった。私が使っていた携帯端末、パソコン、電子機器らを全て再起不能の状態にし、メモリーカード類を完膚無きままに破壊する。次にFBIのデータにアクセスし、如月海吏に関する情報を一斉消去、復元ができないように手を回した。
恐らくだが、3時間後、ジンは確実に私をFBIだと睨み、情報を洗いざらいにするはずだ。ならば、探られるであろうそれらを消去しておかなければならない。

本来なら異変に気付いたFBIが私に連絡をしてくるだろうが、あいにく電子機器は全て死んでいるので私のものへの連絡手段は一切立たれている。運が良いのか悪いのか、私の直属の上司である赤井秀一は死んだことになっているから、上司経由で連絡、なんていうのも無理だろう。


「・・・」


やれることはやった。


時間は間もなく夜の11時。ジンの言っていたタイムリミットだ。
ジンは何を思って私に私を殺せなどと指令を下したのか分からないが、多分あれは私が同一人物であることに勘付いている。すぐに殺さずに3時間の猶予を与えたのは、揺さぶりをかけ証拠を掴みたかったか、或は私の行動を見て確信を持ちたかったか、もしくは最期の悪足掻きを見物したかっただけなのか。

何にせよ、私にはもう後がない。


人の気配のない立地。
足音が聞こえる。振り返るまでもなく、その音で誰だか分かった。


「…フン、やはりお前だったようだな」

現れたジンは、私に不敵な笑みを向けた。