「普通に100キロオーバーしてるよ」

ここ高速道路じゃないんだけど。なんて突っ込むもキャメルさんに届くはずはなく。彼が運転する車はぐんぐんとスピードを上げ、私から逃げていく。あ、120キロオーバーした。凄い、こんなカーブの連続の峠で見通しの悪い夜なのに運転に迷いがない。流石、というべきか。

だが負けられない。なんたってこれは赤井さんからの任務で、赤井さんとの共同作戦だ。失敗は許されない。


「キャメルさん無茶するなあ…」

公安の車が道路の左右で待ち伏せ通り道を塞いでいるというのにキャメルさんは車を斜めにして走り抜けていく。これどんなカーアクション?
というかあれ絶対隠れてる赤井さん、頭打ったよね痛いよね。というか敢えて突っ込まなかったけど車に隠れて出番を待つ赤井さんシュールだよね。


「追ってきていますね」
「ええ、しかも先頭の車…どんどん加速してる」
「…思い出しますね彼女の運転を。まさか組んで、」
「シュウだけじゃなく彼女も生きていると?」
「…そ、…そんな睨まないでくださいよジョディさん」


赤井さんのマイクから聞こえてくる会話に思わずに顔が綻ぶ。ええ、その通り。これは赤井さんとの共同復活劇。私も生きている。もうすぐ、もうすぐ知ることになる。だから、待っていてください。生還、まで。あと、少し。


やがて公安がキャメルさんの車に追い付きそうになる。もうダメ、なんていうジョディさんの声が聞こえた。……ふと思い出したのはアニメでのあのシーン。コナンファンならきっと誰しもが待ち望んだ、あの瞬間。生きていたという喜びとおかえりなさいという歓迎に誰しも声をあげただろう、あの「帰還」その名場面に、私がいる。


そう思うと、手が震えた。

「赤井さん、おかえりなさい」

小声で呟いただけだったのに、マイク越しに赤井さんは拾っていたようで。


「……ああ、お前もな」


小さく呟かれたその声が、あまりにも優しくて思わず胸がじんと暖かくなった。その時、直線が見えてきた。いよいよだ。気持ちを切り替えなくては。「しっかりと狙って下さいね」と言えば、笑う気配がした。

そして、帰還は始まった。


「……屋根を開けろ」
「え!?」
「っ!?」
「開けるんだ、キャメル」


赤井さんと目が合う。


「5秒だ」
「え?」
「もう少し行くと200mのストレートがある。そこに出たら5秒間、ハンドルと速度を固定しろ。このくだらないチェイスに蹴りをつけてやる」


何やらジョディさんとキャメルさんが赤井さんに何か話しているようだが今の私の耳はただひたすらカウントの時を待っていた。「問題ない。規則的な振動なら計算できる」そう言葉が聞こえ赤井さんがこちらにライフルを向ける。


そして、カウントが始まった。


「っ、」

5、マイクからそう聞こえた瞬間。ハンドル操作が効かなくなる。さて、ここからが勝負だ。上手く車をスリップさせ、そのままガードレールに側面をぶつける。後ろに詰まる公安の車をガードレールから離すようにスリップをきかせ、かつ衝突して炎上することのないよう最大限に機転を利かせる。


何度か回転してガードレールと車に擦り続けたせいか、私の運転する車は派手に凹み、傷だらけになってしまった。


「す、凄いわね」
「まるで映画のスタントですね」
「……見事だな」

それは、賞賛ととっていいのだろうか。

ーーー

「あ、赤井秀一!?」
「何故、奴がここに!?」
「いや、驚くのはまだ早い」


そう言った赤井秀一に、公安やジョディ、キャメルとその場にいた人間が一斉に振り向く。どういうこと、と問うジョディに対し、赤井秀一は口角を上げた。

「あの車の運転、見覚えはないか?…キャメル」
「……!?ま、まさか、」
「俺達を見くびってもらっては困る……なあ、海吏?」