「海吏…だと?」

一斉に視線が向く。車からゆっくり降りれば公安の一人が「…なんだ、公安じゃないか」と悪態を吐くが赤井さんは笑みを濃くするだけだった。どうやら変装を解けということらしい。

「暑苦しいですね スーツは」

ベルモットのように顔を剥し変装を解くと驚嘆の声が上がった、が、直後、公安に拳銃を向けられる。うわあ物騒だ仮にも君らの上司の恋人なんですけど…とは言えない。恐らく、安室さんは公言していないから。

安室さんに支持を仰ぐ公安の携帯と、楠田陸道が使った銃を交換し話し始める赤井さんは私を目で呼ぶと「ところで」と話題を変えた。

「海吏は俺の大事な後輩だ。君ら公安に引き渡すわけにはいかない」
「…っていうことは、生きて、」
「それは本人に聞け」


そう言うとひょい、とゴミを投げるように軽く携帯を私に投げた。お前らのプライベートに突っ込む気はないと言わんばかりに片手を振っている。


「……安室さん」
「…海吏!?」
「どうもお久しぶりです」
「いや、久しぶりって…」

勢い良く呼ばれたかと思えば困惑した声が聞こえた。


「大丈夫です。とりあえず生きているので。それと、公安の車一台お借りしました」
「……」
「まあ、色々文句はあると思うので後で聞きます。それと一つ。赤井さんは私の上司です。差し出すような真似をするならいくら安室さんでも止めます」
「っ、」


赤井さん変わりますか、と目配せをすると首をふられたので公安のおっさんに携帯を返す。「安室さんとどういう関係なんだ」なんて目で見てくるが無視を決め込み私はジョディさんとキャメルさんに近寄る。

「色々とご迷惑をおかけしました!」


深々と頭を下げると溜息が聞こえた。「貴方もシュウもどこで何をしていたのよ」そう言うジョディさんは仁王立ちをしていた。「死体すり替えトリックなんて使って」「いや、それは赤井さんだけです」「…え?」「え?」

え?どういうこと?


「待って…トリックじゃないの!?」
「トリックじゃないですよ?」
「じゃあ、貴方は本当に頭を…?」
「撃たれました。で、昏睡してました」
「…こ、…昏睡って」
「あ、そうだ、聞いてくださいよ!私が昏睡状態から復活した時の赤井さんの第一声"遅い"ですよ?酷くないですか!もう少し、こう、言い方があ「海吏!!貴方って人は………!!」


思い切り抱きついてきたジョディさんに目が開く。え、何、何なの、これ。感動の再会ってやつなの?というか私まで死体すり替えトリックだったと思われてたの?嘘でしょ私は正真正銘生死を彷徨った。そして暗闇の中で赤井さんと安室さんの声を聞いたのだ。それで、ここで死ぬわけにはいかない思い………あの、ジョディさん、苦しいです。

「…生きていて、良かったです」


そんな私を察してか遠慮がちに言うキャメルさんにふと思ったことを言う。

「キャメルさんの運転流石でした」
「え、」
「追いかけるの、結構必死でした」
「そ、そんなことは「あるな。今回の作戦、キャメルと海吏がいなければ成し得なかった」

そこで赤井さんが横に立つ。

「キャメルに対抗できるドライバーは海吏だけだからな」
「あら!私は除け者かしら!?」
「いやジョディ、お前の推理がなければ来葉峠でケリを付けることができなかったさ」
「…」

納得いかないのかそっぽを向くジョディさんはやがて私に向き直るとまあいいわ、と小さく笑った。