あれから降谷零の謎の公安推薦口説きは頻繁に続いている。どこから私の情報を得たのかしらないが携帯番号も握られていた。怖い。
そして今日も呼ばれた。


「一ついいですか」
「なんですか」
「何故FBIなのですか。日本出身、日本育ち、アメリカに恩なんてないでしょう、日本の警察になろうとは、」
「思いませんでしたね」
「…何故。警察学校に通えば恐らく貴方はトップクラスです。僕のように主席にはなれなくとも」
「自慢ですか降谷さん」


事実を言ったまでですが、と涼しげな顔で言う降谷零という男は何故かしつこく私を日本警察に勧誘してくる。日本で生まれ日本で育った日本人ならFBIなんてアメリカのために動かず公安として日本で動くべきだ、だいたいFBIならあっちに帰ってくれという話ですよ、ここは僕の領域ですと嫌味ったらしく言ってくる。まあ、分かる。分かるのだ、が、


「それより、私は事件について聞きたいことがあると言われたのでここに来たんですが」
「ああ、嘘ですよそんなの」
「公安は暇なんですか」
「まさか。貴方を公安にスカウトするため僕の貴重な時間をわざわざ割いているのです。感謝してほしいくらいですね」
「意味がわかりません」
「分かってください。単刀直入に言うと、僕は貴方が欲しい」

先程とは打って変わり真剣な眼差しだ。かっこいい、と普通なら思うかもしれないが残念ながら私の感想は髪の毛が目に入っていて痒そう、である。
と同時に欲しい、だなんて言葉を言われればそこらの女性はいちころだろうな私はお前なんていらねえけどな、とアホな事を考えていた。そんな矢先、無邪気な子供の声がした。


「おにいちゃん、おねえちゃんに、こくはく、したね!!!すきなんだね!!」

何処から湧き出たこいつ。


「ええ、そうなんですよ。お兄さん、このお姉さんが凄く好きなんです。応援してくれますか?」
「うん!!ぼく、おうえんする!!」


そして話をややこしくするな公安野郎。お前は子供を利用して上手いこと私を丸め込む気だろ。解せぬ。だが期待に満ち溢れキラキラした目を送ってくる子供が眩しすぎる。この状況、完全に不利だ。


「応援してくれてますし、もちろん答えは決まってますよね?」

これ以上ないほどの笑顔を向けてくる。子供も笑顔を向けてくる。それが分かっていて降谷零という男は私に問いかけてくる。ゲスだ。腹黒だ。鬼だ。


「…」
「さて、そろそろ答えを聞かせてほしいな」
「…善処します」
「ぜんしょ?なにそれ?」


子供が見慣れぬ単語に首をかしげる。だがそれこそが私の狙いだった。まだ状況が読めない小さい子供を上手く利用しようとするこの目の前の男に対抗するならば、子供が分からないような難しい単語で煙に巻いてしまえばいい。というか、それでいくしかない気がする。「分かりました」なんてその場限りのことを言ったとしても、降谷零という男はその場限りでなんて終わらせない。恐らく逃がしてくれないだろう。


「ほう、考えてくれると?」
「建前ってやつですかね」