「え?」
「お前は明日から組織に潜り込んでもらう」
「は、」


急に言い渡された侵入調査。スパイとして入り込めと言われ私は翌日名を変えて潜り込んだ。そこにいたのは見慣れた顔。しかも二つ。


諸星大。
安室透。

彼らの名はこうだった。

「………」

だがどう見ても赤井秀一と降谷零である。知ってたが。おい黒の組織よ、スパイだらけじゃねえかと悪態を心の中で吐くと目の前に現れたのは人気アナウンサー。

「貴方、運転が上手いそうね」

キール、と呼ばれたその女はどう見ても水無怜奈であった。否、CIAの本堂瑛海だ。漫画を熟読していた私にとって考えなくとも分かる予備知識は多い。


「……どうも」

正直、この先の展開も読める。いや、読めるのではなく、知っている。だからこそボロを出すと大変なことになる。というか、多分死ぬ。


「慣れ合うつもりはない」そう言った諸星大は私を見ると数秒目を合わせた後視線を逸らした。なるほど他人設定でいくらしい。一方で安室透は一瞬何かを考えるように私を見てから「まあ、いいでしょう」と鼻で笑った。何がまあいいでしょうなのか分からない、が嫌な予感しかしない。

そこから私はキャンティというスナイパーの部下のような立ち位置になった。短気で挑発に弱いが煽てにも弱い。実に扱いやすい上司だと思う。なにせ「流石キャンティさん、射撃で右に出るものはいないですね」なんて言えばイチコロだ。やがて出世した私はコードネームを与えられた。


「さ、今日こそ手伝ってもらいますよ」
「…」

ところでバーボンは最近ことあるごとに私と組もうとする。「運転技術、射撃の腕、危機回避能力全てにおいて理想的だ」と煽てるような口振り私に近付く安室透は獲物を定める目だった。怖い。
キャンティにはコルンが相棒としているし、ライには宮野明美がいる。ジンにはウォッカがいてベルモットにはカルバドスがいる。だが私やバーボンにはいない。なら僕達も組みましょう、そう言う彼に善処しますと言ったところではぐらかさないでくださいあの時のようにはいきませんよと追い詰められる。こいつ、根に持ってやがる。


そんなこんなでバーボンから口説かれる毎日にうんざりした私はベルモットによって変装術を身につけた。そんな時だった。諸星大がFBIであることがばれる事件が起きたのは。

「フン…やはりFBIでしたか」

キャメル捜査官の失態によって正体を晒してしまった赤井さんのことを、安室透は最初から疑っていたようで寧ろ良い気味だどでも言いたげな態度だった。一方で私はその場には居合わせなかったため疑われなかった。

私もFBIなのだ、ばれたら、終わる。いや、そもそも私は最初から終わっている。この世界に存在する時点でおかしい。そうだ、おかしい、そもそも事実関係がおかしいのだ。このトリップに真実なんか、ありやしない。あるのは偶然だけで私の存在そのものがイレギュラーなのだ。戻る方法も分からないままで、私がこの世界で生きる意味はただ1つ。どんな状況であれ、原作に背いたとしても、この生を謳歌すること。


「ところで、」

バーボンの車で移動中だった私は彼に問いかけをされる。「これは黒としてではなく、白として聞く」そう前述した彼は運転をしたまま話し始めた。


「僕達は互いに秘密を共有している。組織的には協力なんてまっぴらごめんだ、赤井秀一は僕にとって憎き対象だからね。…ただ、個人的に君とは協力関係でいたい」
「善処します」
「またそれかい。君はFBIのノックだ、赤井秀一との関係は恐らく上司と部下だろう。君の正体を露見してもいいんだよ」
「貴方は公安のノック。お互い潰し合いがオチですよ」
「…そうだね。なら僕と組まない理由はなんだい」


理由?


そんなのは

「気分です」
「…は?」

残念ながらそういう人間です。