「高校生探偵、工藤新一…」

ついに昨夜、私は主人公に出会った。出会ったといっても遠目に見ていただけであるが。

アメリカのとある地域に私は任務で来ていた。組織内で単独自由行動を許されていた私はアメリカでとある調査をするとだけ報告し、ベルモットについて調べていた。勿論、これは黒の組織としてではなくFBIとしてだ。そんな時、偶然にも事件は起きたのだ。そして、それを私は目撃した。いつだったか、漫画で見た、あの場面だ。
通り魔に化けていたベルモットが階段で手を滑らせ落下しそうになった時、毛利蘭と工藤新一がそれを救っていた、人を助けるのに理由なんてないと。そこでベルモットは心を射抜かれるわけだ。まあ分からなくはない、気がしない、でもない、かもしれない。……いや、やっぱり分からない。

考えてみろ。それが家族や友達、知人なら話は別だ。百歩譲って一般人もあるかもしれない。だが通り魔の殺人犯をも助けるなんて、正直私には無理だ。というか普通無理だろう。


救うのに理由がないならば相手が誰であっても救うのだろうか。理由がない行動などあり得るのだろうか。そんなの、どれだけ純白で親切なんだ。或は極度の気障か人間皆平等の絶対博愛至上主義者。考えただけで頭痛がしてきた。


理由がない、行動。
……つまりは、突拍子の無い偶然。

例えば、そうだ、私のトリップなんかがまさにそれ。理由なんてない。分からない。知ろうともしない。何故って、異世界に飛ばされる理由など神でないと分からない。


分からないから好き勝手に人生を謳歌する。何も間違ってはいない。理由などどうでもいい。ただ、自由奔放にこの世界に混じり込むことが私の人生だ。そこに理由を見出すならばこの世界に飛ばされたから。なんて考えていれば電話が鳴る。


「貴方はまたアメリカなんて行って僕に対する挑発ですか挑発ですね」
「いや勝手に断定系にしないで下さい」
「何なんですか、僕を煽ってどうするつもりです」
「いや煽ってません。任務ですから」
「どちらの任務です?黒、でなく白でしょう」

彼の言う白とは、FBIのことで、黒とは黒の組織のことだ。どこで盗聴があるか分からないから直接的な単語を出すのはまずいだろうという判断らしい。そもそも白黒任務という単語も盗み聞きされた時点で疑念を持たれると思うが。


「そうですね白です」
「……やはり僕は君に喧嘩を売られているようだ、売られた喧嘩は買わなければね」
「いや何で」
「国際電話は料金が馬鹿にならない。というわけで速やかに日本に帰国し僕の懐に入りなさい」
「いやだから何で」

そして安室透は何故こうもしつこいのか。


と、電話をしながら悪態をついた時だった。「キャアアア」と女性の悲鳴が聞こえ、視界に入ったのは拳銃を持った男複数名と、血を噴き出して倒れる通行人達。次々に撃たれて倒れていくところを見ると無差別乱射らしい。ここら一体が一気に地獄と化した。


「何事です?」

異変に気付いたらしい安室が電話越しに声色を変えて聞いてくる。だが、銃を持った男が私を向くのも同時だった。あ、これ、やばくね。

連続で発砲された何発かの弾が私を目掛けて飛んできた。安室に返事をする暇などないようだ。咄嗟に身体をずらせば弾丸は携帯と私の腕に命中した。

携帯が、木端微塵だ。
とりあえず、血を流す片腕を抑え逃げることにした。