何とか逃げ切った私は警察を呼んだ。FBIとしてニューヨーク市警と面識があったため一言言えばすぐに応援が駆けつけ、犯人は捕まったらしい。治療もしてもらい、いつの間にか眠っていた私が目を覚ませば、右腕が包帯グルグル巻になっていて、右腕の横には赤井さんがいた。…え?

あれ?何で赤井さん?


「お前に向けて撃たれた弾は10発。そのうち1発は携帯に当たり、そしてお前自身に当たったのは腕の1発だけとはな」
「え、何で赤井さんがいるの?え?」
「何か問題があるか?」
「いや、ないですけど、え?」
「通り魔……ベルモットを追っていた。ここに来たのはそのついでだ」

確かに原作であった、ような気がしないでもない。いやでもだからって、仮にも潜入とはいえ私は黒の組織で、それなのに横にいるのはFBIで、あれ、いいのか、これで、いいのか、あれれ〜〜??

いや待て落ち着け。まずは混乱をおさめよう。・・・どうして赤井さんがアメリカに。しかも私の横にいるのだろうか。


「アメリカにいたお前は無差別乱射テロに襲われ、腕を負傷しながらも自力で逃げ切り、一般人を装い警察に通報、そして事件は解決。迅速且つ的確な行動を取った、」
「…っていう設定なわけですか」
「そうだ、組織にはそう伝えたらしい。バーボンがな」
「は?」


何故ここであの男が出てくるのか。


「お前、携帯で話していたんだろう」
「ああ、確かに」
「…相当気に入られているらしいな」
「いい迷惑ですね」
「俺は、相当嫌われているらしいがな」
「…本当にいい迷惑ですね」


ところで、と話は変わり赤井さんは新品の携帯を私に差し出した。何のつもりですかと聞けば、携帯が壊れたのだからこれを使えとのことだった。ほう、新品まで用意してくれるとは驚きだ。操作をしてみようとさっそく手を伸ばす。だが問題はここで起きた。


あれ、私、利き手使えないじゃないか。


「…」
「…」
「…」
「…ふ、」


左手で何とかしようと頑張る私を見て、この男は鼻で笑いやがった。おい赤井さんちょっと何笑ってるんですか、こちとら真面目なのに!


「赤井さん酷いですね」
「すまん、お前の利き手が右だということを忘れていた」
「絶対嘘ですよね」
「…さあ?」
「絶対嘘だ!」
「そう怒るな」


なんだか楽しそうなこの男は携帯如きに苦戦していた私からそれをひょいと取ると物凄い早さで弄り始めた。嫌味か。いじめか。見せつけかコノヤロウ。


「心配するな、データは全部入れてある」
「そうですか」
「ちなみに、安室透は拒否設定にしてある」
「後で私が安室さんに怒られますよそれ!」
「大丈夫だろう」
「他人事だと思って!」

そこまで言うと、赤井さんはふと優しい笑みを浮かべた。その表情があまりにも柔らかいもので、思わず目が点になる。


「あまり、無茶をするな」
「え」
「…死んでもらっては困る」

分かったな、と私の頭を軽く叩き、彼は病室を去っていった。