一ヶ月。
二ヶ月。
三ヶ月、と時は過ぎた。イギリスでの任務は何というかアバウトで、秘密を探れなんて言われても手がかりすらないのにどうやるのだ畜生!である。
そして思った。
多分私はいてもいなくてもいい存在だから都合よく消されるために異国へ飛ばされたのではないかと。でなければ、急にイギリスなんて言われないだろう。ベルモットは帰国したら覚悟しろとか言っていたが果たして生きて帰還できるのか。宮野明美のように吉と出ても凶と出ても死が待っているのかもしれない。
ここで普通ならば絶望を感じるのだろう。
だが
「そうだ、イギリス満喫しよう」
生憎、私はそんな常識人ではなかった。
考えてもみろ。トリップして謳歌する人間を異国で放置など、まさに人生楽しめと言っているようなものじゃないか!
世界を移行した時点で私は既に人生を詰んでるのだ、そうだ、そもそもの話、トリップとかありえないから。ありえないことが起きてるわけだから。異世界とか生死を超越してるから。今更死など問題じゃねから!
というわけで私の目的はもはや観光になっていた。そんな時だった。横から車が突っ込んできた。嘘だろ。
「そこの君、危ない!」
そして白馬探が前から突っ込んできた。嘘だろ。
え、身動き取れねえじゃん。え!?
ーーーー
「驚きましたよ。まさか車のボンネットに飛び乗り衝突を防ぐなど」
「私も驚きましたよ。まさか咄嗟に飛び乗るなんて」
「その上、君をその場から避けさせようと僕が身体を張ろうとしたというのに頓珍漢なことを叫び注意を逸らしたことで僕を巻き込まなかったという紳士的判断を一瞬で、」
「反射的にです」
「…何者なんですか」
「何者なんですかねえ」
自分でもよくやったと思った。自分も轢かれず、私を守ろうと危険な賭けにでたこの青年をも近付けさせず、リスクを負いつつも、被害を最小限にする方法。それを瞬時に考えた。あの危機的状況下で、だ。
「何なのです?僕の勇気と度胸を無駄にした挙句、迅速且つ紳士的な方法で僕のプライドを崩しにかかる。この僕を一瞬の行動でここまで唸らせるなんて相当ですよ、どうです?僕の助手になりません?」
あれ、この流れ、デジャヴじゃね。
「嫌です」
「なっ、」
脳裏に浮かんだのは、暫く声も聞いていない奴だった。