勇敢なのは嫌いじゃない。大胆なのも嫌いじゃない。無鉄砲も嫌いじゃない。
だけど、それも度が過ぎるとただの馬鹿になる。それだけならまだいい。1番厄介なのはお節介という名の無鉄砲すぎる行動で、周りが何も見えていない故他人をそれに巻き込んでいるというものだ。面倒なこと極まりない。例えば今のように。
口にも表情にも出さないけど。なんで来たかな。とか、この状況で自分は足手まといになるだけとは思わなかたの。なんて内心で文句をつらつらと並べる。はっきり言ってと言われるかもしれないが、それはやはり面倒なので内心に留める。私、性格悪いかもしれない。だから笑顔を作った。
「すみません、手助けができればと思ったんですが、逆に助けてもらっちゃって」
「いいよ、無事ならそれで」
犯人と対峙していた私に気付き、私を助太刀しようと考えなしに突入して犯人に気付かれ、刃物を向けられたところで逆に私に庇われるなんて。正直マヌケもいいところだ、勘弁してほしい。なんて言ったところで事態が好転するわけでもないのだ。表面上穏やかに終わらせることに越したことはないだろう。それに、まあ、あれだ、彼女は彼女なりに私の事を考えての行動だったと思う、それは分かる。
彼女を庇う時に腹部をナイフが掠ったことは知らないだろう。多分見えてないしまだ気付かれてもいない。それでいい、余計な面倒事は増やしたくない。滲み出した血が地に垂れるまで時間の問題だが、だったらそれまでに撤退すればいいだけの話。
何度でもいう。私は面倒事が嫌いだ。
「雅、ちょっと来んさい」
マトリちゃんを関さんに預けた後、すぐ後ろで声がした。出来れば聞きたくなかった。
ため息を吐いて後ろを振り向こうとして、腹部に当てていた手にどろりとした感覚があった。あっ、やべ。時間切れだ。ズキリと走った痛みに顔が歪みそうになるがそこは「面倒くさい」ので表情に出さず、すばやく負傷した箇所にタオルハンカチを入れてとりあえずやり過ごそうとする。普段通りを装って服部さんのところへ歩けば無表情で私を見ている。こっわ。
「ほーん」
こっわ。
ほーん、じゃなくて、なんか言ってくれよ。それが一番怖いんだよ。
何も言いださない上司は恐らく私は口を割るのを待っているのだろう。この腹部の負傷だって絶対にばれている。マトリちゃん相手に騙せてもこの上司を騙せるとは思っていない。それこそ主演女優賞レベルの演技力でも騙せない気がする。ああ、めんどくさい。黙って騙されてくれっればいいのに。めんどくさいこの上司。
「報告書は後で上げておくので」
「そう」
「私は先に戻りますね」
「そう」
「……」
なんだ、その目は。何も感情がないような目が容赦なく私を見ている。怖い。
まってこれ、素直に白状した方が面倒事を回避できたのでは、と一瞬頭をよぎる。
「雅。お前、めんどくさいよ」
「は、い?」
何を言い出すんだこの人は。めんどくさいってそれはこっちのセリフなんですけど、と口から出かかってそれを引っ込めた。言ったら言ったで面倒事になりそうなので、とりあえず豆鉄砲を食らったような顔をしてみて反応を伺いつつ、手当を早くしたいので撤退を試しみようと頭が急速に回転をし始める。この人の隙を突くのは難しいが、適当に返事をしていれば多分見限るように「あとは勝手にして」とか言って見離してくれるだろう。やはり私は、性格が悪い。
そんな私の様子をみて服部さんは、ますます不機嫌全開になってしまった。
あれ、どこで間違えたから。そろそろ立ってるのがしんどくなってきたんだけれども。
「倒れるまでソレ、続ける気?」
「あの?」
「めんどくさい、めんどくさい、だから荒波立てずに穏便に。そうやって逃げる。悪いけど俺は見逃してあげないよ。ってことで、さっさとこっちのパトカーに乗って」
「…気づいていたなら騙されてくださいよ」
「そうやってその傷でよくもまあ逃げようとすること」
「別に逃げてませんって。ただ服部さんの手を煩わせるわけにはいきませんから。私は大丈夫なのでお気になさらず」
もう撤退しよう。私が運転してきたパトカーは運よく服部さんの後ろではなく、私の横に停めてある。あの人の横を通り過ぎたら多分そこで捕まって終了だろうから幸運だった。服部さんから距離を置くように横に歩き車へ向かい、追いかけてくる様子がないので、ほら見限ったと思った。壮大なため息が聞こえてきたから、次に来る言葉は勝手にしろ、だと思った。のに。
「だから言ってんだろ。逃げるな」
あろうことか、この男。私に向かって発砲した。頭のすぐ横をヒュンと何かが通り抜けた。いや、何かって弾丸なんだけれども。後ろを振り向けばまだ銃口を私に向けていた。うわあ、、、犯人ってこんな気持ちなのかな。なんてのんきなことを考えるくらいには混乱している。
「次動けば、そうだね、足にでも撃ってあげようか。歩けないように」
「…やりかねない」
「それとも、反省するまで監禁してあげようか」
「…やりかねない」
「そういう事。面倒事を避けたいなら素直になりんさい」
「それ言うために発砲までする人いませんて普通」
「そうさせたのは目の前の逃亡癖のある部下なんだけれどねえ」
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