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「好きです、付き合って下さいっ」

たまたま入ったお昼時も過ぎて人が少ないカフェで、近くの席で告白が始まった。野薔薇も悠仁も驚きにぶるっと震え、ばっと声の方を向く。他の客には聞こえていないらしく注目を集めるなどはしていなかったため、恵は同級生2人の行動が目立つな。と半ば現実逃避をしコーヒーをひと口。
向いた甘い告白をしているそちらの席では、20歳ぐらいの若くかわいいよりは綺麗めな女性が顔を赤く染めながら目を潤ませている。しっかり自分の魅力を引きだせるメイクに洋服にと、装備を纏った女性の告白姿に野薔薇は「ガチだな」と感じ、まったく知らない人なのにこういった場面に出くわすと応援したくなるのはなんでだろう、と思いながら悠仁はぐっと拳を握る。手汗も滲んでいるかもしれなかった。

「気持ちはありがとう。」
「は??」

相手の声が聞こえたとたん恵が勢いよく、それはもう首が撚れるんじゃないかというほどの勢いでバッと反応した。ついでにスマホも取り出して無音カメラも起動した。
野薔薇も悠仁も聞き覚えのある声だ。やわらかく優しい声の男性。
伏黒恵の父親、体術などを教えてくれたりする甚爾と仲良くしている髪の明るい非術師。一緒に住んでる、らしい。たまに高専にも来る。津美紀と恵の育ての親でもある。本人は「育ての親だなんて大層だよ、居候だよ」というが、伏黒家的には育ての親だ。優しい。明るい。お人好し。初対面はガチガチに緊張された。青年。おじさん。たまに奇声が出る。常識人、なはずなのに所々おかしい。エトセトラ、エトセトラ。ぽこぽこ出てくる彼の思い出やイメージを脳裏に描きながら、先ほどより身体を乗り出し見知った顔を視界に収める。
告白を受けているその表情は優しく、照れもあり赤みがあるが、どこか冷たさももっていたようで返事を察した野薔薇はおしゃれなカップに入った紅茶を半分ほど一気に煽った。

「でも、ごめんなさい。」

やっぱりな、というような返事。
側から見てもわかるように彼はあの伏黒恵の父、甚爾にくびったけだ。恋愛として恋人や夫婦間の相思相愛かは別問題として、2人して執着と友情と愛情とをごちゃごちゃに混ぜて長年の付き合いをスパイスにさせ、こねてのばしてやいてくだいてかためて……2人の世界をつくってある。友人のようで他人みたいで、恋人のようで家族みたいに。野薔薇と悠仁は初めて彼らの距離感や気さくさを見たときに恋人同士かと思ったほどだ。
それほど2人は親密だ。
そりゃあ告白は成功しない。
相手の女性はぐっと泣くのを我慢するように顔を強張らせ、口の中で言葉にならない声を転がしてからそっと小さい声でつぶやいた。

「むすめさんが、いらっしゃるから、ですかっ?でも、独身だって聞いて、その」
「…………は?!」
「えっ…?!いらっしゃりますよね?あの、バイト先によく来てらっしゃる黒髪ロングの、かわいい女の子で……」
「………えっっっっ?!津美紀ちゃ?!もしかしなくても津美紀ちゃん???!」

バイト先によく来てくれていたり、帰宅時間があえば一緒に帰っていた待ち合わせなどで津美紀が娘にみられていたらしいことに慌てふためいた礙之は飲みかけの茶をこぼしかけ、さらに慌てる。ガチャン、とぶつかる音がした。

「あ、はい。たしか、そんなお名前の」
「いやいやいや、津美紀ちゃんは、あー……居候させてもらってるお家の娘さんで、俺の娘では……なくて、ですね。あー………」
「へっ?!えっえっそうなんですか?!」
「うん……」
「あっ?!えっ?!えっ?じゃあ、ご結婚は?!」
「シタコトナイデス」
「アッスミマセッ」
「イエッ」

嫌な沈黙が落ちて、2人して茶をひと口。そっと聞いていた野薔薇も悠仁も苦笑いしてしまうほどの空気。
礙之の年齢なら津美紀ぐらいの子供がいても違和感は無いし、そう思っていたなら結婚していると察してしまっていても変ではないだろう。彼女は娘はいるが結婚していないを、奥さんに先立たれたか離婚したかで結婚は今していないバツイチで娘を育てるシングルファーザーに捉えていた。ちょっとした認識のズレと確認忘れの連鎖だっただけだ。仕方がない。
礙之は引き攣る頬を無視するようにはははと軽く笑ってから、話を改めるように彼女に向き直った。

「えっと、あー、俺は好きな人がいます………。なので、お付き合いはできません。」

告白は否とされた。
それだけ。
カフェの騒めきがいやに耳にこびりついたらしい女性は息を忘れたように少し咳き込み、潤んだ目をめいいっぱいひらいて目前の好きな人を脳裏に焼き付けるようにじっと見つめる。

「おっ、教えてください!どんな方なんですか、その、好きな人、って…………」
「えっ」

ばっと先程から静かになっていた恵の方を2人が見れば、無言でスマホをかかげていた。
音もなくかかげられてはいるがこれはもしかしなくても動画撮ってますね…と虎杖は半笑いになり、その動画の宛先を察してしまった野薔薇は面白がりながら恵に撮りやすい場所を譲ってやった。ことの経過は話せよ、と視線で訴えると恵は少し笑って首を縦にふる。あのクソ乱暴手抜きなしヒモ教師(教師ではない)の弱味になるものだ、礙之に人権は無いが共有しなきゃ損。スマホ画面には2人の姿はしっかりうつっていないが、声が入ればいいらしい恵は無意識に息を潜めてしまっている。

「俺を好いてくれる人がいるんです。」
「えっ」
「たぶん、きっと、世間でいうなら両想いの類なんですけど…。でも俺はあの人の一番じゃなくて、まぁ、それは気にしてないけど……。」
「……」
「俺もその人も今の位置が好きで、お互いが踏み出さないし他に気移りしないこともわかってるので、そう、なんていうか、恋人未満みたいな、感じの人。を、好いています………。恥ず」

照れているらしい彼は苦く笑って、自身の恋路についてぼそぼそつぶやく。甚爾のことだな、やばいな、これきいちゃいけないことだった感あるな、好き同士だったんだな、あれ、伏黒撮って…………と振り返った虎杖は恵の顔が怪しげににこりと笑っているのを見てしまって小さく悲鳴をあげた。怖っっっ

「……どうしても、ですか。私の一番に………」
「……ごめんなさい」

しっかり頭を下げて否をしめした礙之に、溢れ出した涙を止められない彼女は顔を赤くさせコクコク頷きながら口を閉ざす。
ピコン、間抜けな録画停止音が恵のスマホからきこえてきた。
 
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