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(育児に家事に手伝ってやってきたけど別に得意じゃないし、食事は他人に出すものと自分だけのものは差が出るのは当たり前な礙之さん。

パーフェクトなヒモだったので、だいたいそつなくこなせる甚爾さん。)



「お前、飯作るの上手くないよな」
「フゴッ」
「ンンッッ」

共同キッチンの扉越しに聞こえてきた甚爾の声に悠仁と恵は足を止めた。咽せながら。
優しさがにじみでたような、どこかあたたかいような普段とはまったくちがう甚爾の声に、野薔薇は「あぁ、あの人と一緒にいるのか」と察してそっと扉を数センチ開ける。ふわっと香ったラーメンの匂いに口の中によだれがじわっと溢れて、前のめりになったまま野薔薇がバレないようにそっと覗きだす。やめとけと恵が止めようとしたが、好奇心という欲望に負けた悠仁も野薔薇同様に覗き出し、後ろから見ると覗きって間抜けに見えるなとも感じながら自身も顔を近づけた。
ちょうど共同キッチンに2人が立つ姿が見える。背を向けている彼らはこちら側の3人には気づいていないようで、ぺちゃくちゃテンポのいい会話をつづけながインスタントのラーメンを作っているらしかった。

「ご飯中に言うなよ」
「味が薄い」
「仕方ねぇで〜す!!!ソースかけろ!醤油足せ!」
「やっとけよ」
「いや、無理。怖くない??自分の味覚とか怖くない?俺の舌は信用ならないから、甚爾さん自分の舌にあわせて調整してくれ〜?てか!今、食ってるのは普通でしょうが!?!?!」
「インスタント麺だからな」
「正解!」

馬鹿みたいにはやくテンポ良い掛け合いにまだ数回しかぶちあたった記憶のない野薔薇と悠仁は、友人の身内の会話にちょっとだけむず痒くなりながら恵を盗み見る。

「伏黒、本当なの」
「たまに、薄味の日があるのは確かだ」

懐かしむような、薄らぼんやりした表情の恵は、でも、そんなのごくごくたまに稀にあるか、ないかだ。たまにある薄味だって、不味いわけじゃないしな…と高専に来るまでに親しんだご飯を思い出す。
小さい頃から津美紀と恵を育てた飯。津美紀は今も家にいるから、体は彼の飯でつくられている、だろう。津美紀の料理の腕が上がってきているらしいことは知っているが、毎日の料理は津美紀じゃない。バイトでばたばたしながらも冷食や惣菜なども使いながらしっかり満足できる3食を用意してくれていたことも、じんわり思い出された。

「この前夜食つくってもらったけど、おいしかったよ?」
「いつのまに?!」
「夜中に帰ってきたとき出くわしてさ」

夜中の任務終わり、腹ペコ悠仁を満たしたのは確かに礙之のごはんだった。
その日、甚爾に用があったらしいが任務が長引き高専に引き止められていた彼は明け方前に帰ってくるらしい甚爾を起きて待つため、眠気覚ましに共同キッチンで暇を潰していたらしい。
その時つくってもらった、バターを混ぜたご飯にミートソースとチーズをかけてチンして軽く焼いたドリア風のものはとんでもなくおいしかった。しかし、そのミートソースがレトルトのミートソースだったか手作りのミートソースだったのかは、悠仁にはわからないのでそれ以上は言えないのだけれど。

「俺と二人のとき勝率4割だぞ」
「あらららら〜甚爾さんのお馬さんより勝率いいじゃんか〜」
「あ゛?」
「は????事実だろ????」

ピリッとしたはずの空気もラーメンの匂いにかき消える。

「あの顔面に睨まれて怯まないの凄すぎない?」

授業というなのシゴキをされてる時の怖い顔面のときよりさらに怖い顔面と地を這うような低い声なのに、と含ませる悠仁に「あの二人はあんなもんだぞ」とさらりと返事されてしまう。
2人の会話に遠慮はだいたいないので慣れ親しんだ恵はいつものことだった。
初々しくもだもだしたり、気さくに馬鹿を言い合ったり、昔馴染みみたいに笑いあったり、他人のように冷たくなり、互いしかわからない世界を覗かせたりする2人に、親の生々しいものを浴びせられたような、そんなおかしな気になったりもするのも本音だ。なれとはそれらを余裕を持って見れる精神にしてくれた。ありがたいのか、ありがたくないのかイマイチわからないけれど、恵にとってはいつものことだ。

「恵と津美紀がいるときは9割なのにな」
「それは俺も思ってる。なんでだろうな〜?2人がいないと味の薄さが増す」

この前イベント事で食べた精進料理でもあの薄さではなかった、つらい、と礙之がぶつくさ自分の料理に文句を言いながらちゅるりと麺をすする。

「この前のカレー」
「ゔっ………あれは本気で申し訳ないっ、カレー味の固形物だったもんな………。ルーに戻っとんのか、って思ったもん」
「あれは一年に一回の失敗の類いだろ。去年のチキンライスみたいな」
「うわ、懐かしい。覚えてるよなぁ??なぁ?忘れて欲しいんだが????ぬちゃっとした焦げて苦い不味いチキンライス、忘れよう?ね???」

そんなのあったのか、と恵は面食らいながら聞き耳を立てることをやめられない。

「はーーー料理好きになることなさそうだなぁ…」
「ないだろうな」
「てか、甚爾さんの方がよっぽど美味しいご飯つくれるでしょ?作ってよ、今日帰ったらどう?」
「面倒」
「くっっっっそがっ俺も面倒だわっっっっ」
「夕飯なんだよ」
「安売り鰹のたたきです!!!!!!」
「チラシを近づけるな」

恵が少し下がるように足を引いて、おや、と悠仁が顔を上げた。

「伏黒、大丈夫か?なんか、遠い目してる……」
「なんていうか」
「うん」
「あの人そんな素振り見せなかったな、と思った。だげだ」
「ま、子供には見せないでしょ。大変なんです〜嫌いなんです〜なんて、ましてやあんなお人好しそうな人がすると思う?」
「しないだろうな……。というか高専の共同キッチンでなにしてんだあの人たち」
「インスタント麺、立って食ってるな」
「家かよ」
「家でもしてない」
「そりゃ2人の時はしてるのよ」
「あ〜」
「納得しないでくれ虎杖」





「……(あの3人、バレバレなんだよな)」
「ん?食べねぇの?」
「(コイツは気づいてないけど)……嗚呼、食べちまっていいぞ」
「ふーん?あんがと。やっぱうまいねインスタント麺」
「この後の買い物ついてってやろうか」
「は???ついてこない気だったの???強制的に引っ張ってく気だったが?????荷物持ちよろしく」
「行きたくなくなってきた」
「は〜〜?????????????」



(ひとり暮らしの最低基準自炊ができるからって、他人に出す飯が得意とは限らないですよね。自分だけが食べるなら手抜きなんていっぱいしますし。という話でもある。)
×U×