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【貰う】
「これ、くれ」
藤丸立香は唐突に目の前に出された礼装を理解するのが遅れ、ぽかんとくちをひらく。隣にいたマシュも驚いたようで、食べていたデザートを予定よりはやくごくんと飲み込む。
「………ん?あぁ、明るい青年!」
礼装、明るい青年。先日、小特異点を解決するにあたり縁が結ばれ藤丸のサーヴァントになってくれた伏黒甚爾を、あの虹色の石で引き当てたときに一緒にきてくれた礼装だ。高レアガッツ礼装を持っていなかった藤丸はそれはもうはしゃぎにはしゃぎ喜んで、来たばかりでこちらにも奇声をあげて喜んだ甚爾の手を無理矢理とって小躍りしたぐらいだ。隣にいてくれたエミヤとマシュに慌てて止められて、なんとか絆レベルマイナスからのスタートにはならなかった。
その甚爾が礼装を欲しがる。ギャンブルが好きなのは仲良くなって知っているが、礼装に興味があったのは知らなかったので藤丸は初めて垣間見た姿にさらに仲良くなりたいなぁ、と呑気に脳裏で思う。
「礼装だからあげることはできないけど、今のところヘラクレスか甚爾にしか使ってない礼装だから、貸し出しはいいよ。使う時にかえしてもらうけど」
「嗚呼、あのでかいバーサーカ」
甚爾の記憶にいる黒くでかいバーサーカを思い返しながら、礼装に描かれている絵を軽く撫でる。ゆるく柔く笑っている青年に生前見覚えがあるようで、ないようで、ある。のはなんだろうか、と靄がかかるような気持ちに顔を顰める。生前の記憶にはない。しかし、この礼装の青年は確かに生前の甚爾の誰かだったのはわかる。わかることと記憶にないことがまったくもって合致せず、別側面というやつなのだろうか、と沢山いるブリテンの王をふと思う。
藤丸とマシュはその様子には気づいていないらしく、最近立て続けに発生する小特異点に頭を悩ませて編成しているタブレットを片手にため息をおとす。
「他のガッツ持ちの子にも合えば使ってみたいけど、今は必中の方が必要なんだよなぁ」
「回避を持つエネミーが多いですものね」
「そうなんだよ、マシュ。似通った小特異点の同時発生らしいから、ある程度したらおさまるってきいてるんだけどね」
「へぇ、ま、俺が必要ならその時は呼んでくれ」
「うん!ありがとう!」
戦いを好む甚爾らしい返しに藤丸は頼りにしてます、とぐっと息をつめる。今回の小特異点にもほぼ引きずりまわすことが決まっているのでほどほどにしましょう先輩。とマシュからやんわり釘を刺されたが、仕方がないことでもある。まだ戦力が万全じゃないカルデアの単体宝具アサシンだからそりゃ引きずりまわしますよ、というのが本音だ。
ひらひら手を振ってさっさと行ってしまう甚爾の背中を見送りながら、マシュははっとしたように口を開いた。
「Mr.甚爾は礼装をどうなさるんでしょう、賭け試合は1週間禁止なはずですよね?」
「あれっ本当だ。ききわすれた」
「…悪くは使わないだろう」
ことの流れを無言で見守りながら藤丸のデザートを作って持ってきてくれたエミヤは、甚爾の目に浮かんでいた愛おしさをみてそういった。
【戦闘後】
「いやぁ〜、今の宝具でトドメ、よかったね」
「そうかよ」
「そうだよ。甚爾さん返り血はやばいけど、このエネミー毒や呪いはないらしいからよかったんだよ。解体して素材マスターに持っていってあげようか〜」
「心臓とれるか?」
「ツノじゃないかな?」
「こっちか」
「ギャッウッッッワグロッ」
「何回見てると思ってんだよ、なれろ」
「ヒィむり」
「甚爾ー!明るい青年さーん!素材取れそうですかー!?」
「マスター!いけそうだよ!」
「やった!」
「おら、持て」
「オッッッ」
【信仰度低】
「あら、うふふ」
「ふふふ、珍しい人」
「こちら側になってないのが不思議だわ」
「サーヴァントになれたかもしれないのね」
「あ、こっち向いたわよ」
「幸薄そううよね」
「かわいいんじゃない?」
「そうかしら?」
「あのアサシンのひっつき虫ってだけでしょ」
「逆じゃない?」
女神さまたちの集まりの前を偶然通ってしまったら散々な言われようだ。サーヴァントになれるほどの信仰は受けてないんで、はははと笑って逃げるように甚爾さんの元に急いだ。
【2人の】
「子供すきなのか?」
「ん?いや、好き?………どうなんだろ?なれてはいると思う、よ?」
この両手をひいてくれていたあの子達をふと思い出して、2人のことは大好きだったけど他の子供が好きかと言われたら微妙なところだ。かわいいし魅力あるけど好き、か?
子供サーヴァントたちはかわいいし独特だけど、好いて好かれているかどうかは微妙だ。俺は礼装だし、立場も違う。
「エミヤさんのクッキーの力もありますね」
おやつのクッキーにはしゃいでいる子供サーヴァントたちを見てほっとしながら、エミヤさんがいれてくれたココアをいただく。甘くて美味しい。エミヤさんなんでもできるな、すごいな。こんなおやつがつくれたら2人はもっと喜んでくれただろうか、やわらかく笑っておいしいと言って私もつくりたいとはしゃいでくれただろうか。わからないけど、2人の笑顔が脳裏によぎっては消える。
「あのアサシンよりは上手いとおもうが?」
セット扱いを受けている甚爾さんを思い浮かべながら、あまりにも凶悪な顔とよくない性格とギャンブルや殺人などの言動に保護者サーヴァントさんたちが子供サーヴァントたちを引き離しているのを思い出す。自然と苦笑いになった。
「そりゃぁ、甚爾さんよりかは誰だってマシ」
「はは、そうか。おっと、数が合わなかっただろう、すまない。うまくわけてくれたんだな」
「追加で焼いて!?うまそ〜!ギルくんとか遠慮してくれて、あとで追加してあげよ」
「女子会とやらをやるらしくてな。お茶請けのひとつとして渡すんだが、余りだ」
「は〜女子会。女子……?」
「ひっかかるなひっかかるな」
「あら、あなたも参加する?」
「ヒッ」
【栄光のサンタクロース・ロードのプレゼント話】
「おい」
「はい」
「なんだこれ」
「ホットプレート、です。ね?」
てーん、と置かれたプレゼントボックスからでてきたホットプレート。
たぶん、がつくが、これはおそらくクリスマスにくばられたあのブラックプレゼントボックス。クリスマスが近づいたこのカルデアはまたおかしなことになっていたらしく、毎年恒例だなとサーヴァント甚爾は遠い目をし、礼装の明るい青年は楽しく参加させてもらった。
なんやかんやと解決しなんとかクリスマスを無事に遂行させることができて嬉しいと、協力してくれたお礼として、と礼装である彼にまでプレゼントボックスを渡した施しの男を2人で思い出しながら大きめのホットプレートを眺める。甚爾に与えられたプレゼントボックスからは使い勝手のよい呪具が出てきたため、まさか調理器具がでてくるとは思いもしなかった。礼装強化素材とかが入ってると思っていた、とは青年の本音だ。
「あ」
「あ?」
「えっ、嘘。マジ?これは、あれでは???」
「は?」
「いやいやいやいや、そんなに?そんな時間差で?は???ははーん??いや、たぶんそうだな?メーカーも大きさも一緒じゃん??大破だったもんね??え?今??今更〜?????」
「おい、わかるように説明しろ」
「……………どうやって?」
その声が平坦で、甚爾は眉を顰めた。ホットプレートを触って見て確認していたおしゃべりな姿はかけらもなくなり、礼装にうつっていたあの笑みもなく、ただ平坦でマネキンのようである。
しばし沈黙がつづいていたが、明るい青年はハッとしたように顔色をいつものように戻して笑う。先程の言葉や空気はなかったことにされたらしい。
「さーて!!!ホットプレートがあるんだから、お好み焼きでしょ!!」
「一択かよ」
「もんじゃにする?」
どっちでも、と甚爾が答えると同時にあのいやな雰囲気がじわりと纏わりつくような感じがした。
【答え合わせ】
「俺はお前の知ってる『甚爾さん』じゃないんだろ」
「そりゃ、まぁ?俺の甚爾さんはもうちょっと歳をとってくれた人だし」
「………生きたのか」
あの地獄を?あいつのいない世界を?
そうつづいたかもしれない言葉は、礼装の青年のやわらかい笑顔により飲み込まれた。
「生きてくれたよ。苦しかっただろうけど、生きにくかっただろうけど、生きてくれた。息子も娘も優しく受け入れてくれる強くてかっこいい、俺が好きで俺も好きな甚爾さんだよ。甚爾さん(あなた)じゃ、ない。」
甚爾のもしかしたらを知っている男。
甚爾のもしかしたらとともに生きてきた男。
それは青年の目前にいるアサシン伏黒甚爾ではなく、甚爾にとってもともに生きたのは礼装の青年ではない。
記憶にいないはずなのに、本能が礼装の青年を自分のものだと叫ぶような渇望がふつふつ湧き上がる。そんなわけがないと、俺が必要としているのは息子を産んだあいつだけだとわかっているはずなのに、この男も欲しくなる。
……俺にはすでに必要ないはずなのに、欲している。
青年にとってアサシン伏黒甚爾はあの甚爾さんではない。
頼りになって頼られて、好きで好かれて、ともにいた彼じゃない。でも、垣間見えるのは確かに甚爾さんで、青年は懐かしさに目を細める。
「でも、あなたも甚爾さんだから、俺は隣にいる。楽しいし嬉しいし、なんとなーく気もあうし?」
「………そうか」
「そうだよ。これから仲良くなればいいんだよ。俺たちはマスターの元にいる一時的な陽炎みたいなもんだから、仲良くなっていけば問題なんてないさ」
にっと笑って、暗い話はおーわり!と区切りをつけた礼装の青年。
「名前は?」
「『明るい青年』だよ、甚爾さん!」
名前はともに生きた甚爾のものなのだ、と知らしめられた拒絶に甚爾は湧き上がる渇望をぐっと奥歯を噛むことでねじ伏せた。
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