top back name


【違薔薇道】


呪術廻戦、というドラマを見て私は伏黒甚爾役のとうじさんに沼った。もう、ほんとうに、唐突に、足元が急にぬかるんですぽーんと沼にハマった。あの顔、あの目、あの体、あの声…どれをとっても最高に私を惹きつけて離さなくなった。かっこよすぎる。
のだが、彼は元々スタントマンだったので「呪術廻戦」に出る前の過去出演作品で顔が見えることはないし、なんなら上手く編集されてどれがとうじさんのスタントなのかもわからない。映画やドラマとしてはそれでいいのだが、とうじさんが見たい私や他のファンは擦り切れるまで「呪術廻戦」を見るか、たまーにでていた宣伝番組で端の方に立って一言も喋らない彼をみつけるぐらいしか供給がない。つらい。同担の子とガチ泣きしたのも事実だ。こんなにも推しが生きてるのに、つらい。そして、今後もスタントマンを中心としてお仕事をするらしく、供給も見込めない。つらい。それを知った昨日からつらすぎて嗚咽を漏らして泣いた。

「いらっしゃいませ。申し訳ございませんがお一人様の場合相席になりますが、よろしいですか」
「えっ、あ、はい。大丈夫です」
「では、こちらにどうぞ。」

いつものカフェ、いつもの時間、なのに今日はいやに混んでいたらしく相席になってしまった。なんとなくショックを受けながら雑誌で紹介でもされたのかな、とキョロキョロしていると馴染みの店員さんが小声で「テレビ」と教えてくれた。それなら仕方ないか、とため息。昨日わかってしまったショックな推し供給に相まってテンションが下がる。

「ご注文お決まりでしたらお呼びください」
「はい、ありがとうございます。」

にこりとして店員さんがはけていく。
相席の相手には先に声かけが済んでいたらしく、彼はちょっとだけ頭を下げてまた半分以上平らげたサンドウィッチを食べ進めだした。そっと、うかがうように見たけれど、なんてことない男性なのにどこかで見た気がする、という変な気分にお冷やをひと口。仕事先のお客様だったろうか?思い出せない。
変な思考を振り払うように、メニューからモーニングのBセットを注文してネットサーフィンへ。たまにとうじさんとの写真をあげてくれるさとるさんのSNSには、劇場の入り口と相方のすぐるさんをうつした写真と「今日は祓ったれ本舗!」という一文が添えられている。イイネの量が半端なくて、ちょっと笑ってしまった。相変わらず仲良しなコンビだ。ドラマの傷が癒える。

「ん?」

バッとスマホから顔を上げて相席の男性をしげしげと見てしまう。
いや、まさか、まさか、うそでしょ、いや、だって、この人、このひとは………?!とうじさんといっしょに写真にうつってる、一般の方、だ、?!えっえっ?名前は、たしか?!?!礙之さんだよ!うわー?!?!?!?!ひとちがいかな?!
さとるさんがあげてくれるとうじさんの写真によくうつる一般人男性。お名前、礙之さん。基本情報はそれくらいしかないのだけれど、とうじさんのピン写より2人でうつっているときの表情がやさしかったり素だったりするのでファンはもうたまらない。あのちょっと怖くてかっこいい顔がかわいくうつるのだ。もーたまらない。この前あげてくれた祓ったれ本舗のふたりに挟まれてる写真の仏頂面と、礙之さんと2人でピースしてる写真の照れ臭そうな笑みの2枚の差にファンはみんなしんだ。尊い。一般人だけどお前も推す。
悲鳴を上げガチ泣きしそうになったのを見られながら、彼はにこりと笑った。

「呪術廻戦のファンの人?さとるさんのあげてる写真みたかんじかな?」

首が取れるんじゃないかというほどの力強さで縦に振り、「と、と、とう」と、もう言葉にならない声を振り絞ったが「とうじさん」という短い単語にすらならなかった。めちゃくちゃくやしい。つらい。泣きそう。
彼は気にしてないのか、察したらしくぱっと顔を明るくさせて笑った。いや、笑顔素敵すぎない?!どーゆーことなの、写真のままじゃん。あれは本当に日常の切り抜きオフショの中のオフショなのでは?

「とうじさんのファン?マジ?嬉しい!これからも応援よろしくおねがいします!」
「ハヒィ」

とうじさんが好かれて喜ぶ?!
かわいい?!なに?!
なぜ?!
頭がパニックになりながら、彼の顔と自分の手元を交互に見て色々と飲み込もうとしているが中々上手くいかない。悲鳴は飲み込めたけど、汗がやばい。てか、さっきまでの推し供給のなさに嘆いていた私どこいったんだろう。もう、これだけで数ヶ月の残業乗り越えれる。気がする。

「お姉さん、おしゃべりしていい?」
「えっあっはいっ」
「ありがと!周りがとうじさんの知り合いだし、あんまり伏黒甚爾について語れなくてさ。恥ずかしいしね」
「アッハイ」
「とうじさん、ってか伏黒甚爾が五条悟を刺すシーン、俺好き。一回じゃなくて何回もさすのが殺しやってるな〜怖って思う」
「わ、わかります!!同意見の方嬉しいッあのシーンみてやばっ怖ってなって、更に好きになりました!」
「いいよね!嬉し〜!俺ドラマとか普段見ないけどめちゃくちゃ面白い」
「戦闘シーンかっこいよすぎまして…」
「わかる」
「あれスタントなしですもんね」
「あの人ああ見えてスタントマンだからね〜」
「ンンンッ……………ああみえて?」
「ん?あ、顔」
「顔が良すぎる」
「世間も思うよね?あの人顔自覚してくれ…」
「ヴァッ……………続編…期待しちゃうんですよね…!」
「わかるな〜!回想とかできたらテンションあがっちゃうよね!…お?」
「へ?」

ポコン、と音を立てて右端に置かれていた彼のスマホが鳴る。
『とうじ:ついたぞ』とだけ表示された画面。

「ヴァッッッッ」

とととととととととうじ、とうじさん?!とうじさんからのお連絡?!見ちゃった?!殺されない?!私殺されたりしない?!さっきのしらないとうじさんの情報がたくさんきたときも奇声があふれでてた私殺されない??!?

「おっそい」

半分笑いながらスマホを操作して何かしら返信をしている礙之さんをぼんやり眺めながら、もうキャパオーバーでなにも考えられない。
ただひたすらにスナイパーとかに殺されませんように、と願うしかない。

「話しきいてくれてありがとうお姉さん」
「いえっそんなっあのっはいっ」

スマホに表示された文字をなぞる目が優しすぎて、とうじさんと礙之さんセットで推す茨道を覚悟した。
あぁ〜推しが尊い!!!!!!!
 
prevUnext