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「うーん………じゃあ津美紀ちゃんはどうしたいの?」

目の前の、私を育ててくれた彼はそう言ってにこりと笑う。冷たさも温かさも感じるその声色に私はポカンとしてしまって、飲みかけのココアを手でつつむように持つ。じんわりしたあたたかさが手のひらに伝わって、さっきの彼の言葉も温かかったように勘違いしてしまいそう。

「どう、とは?私は恵に喧嘩をやめて欲しくて…」
「えっとね、俺は恵くんが喧嘩するのは一応反対だけど、今なにを言っても聞かないだろうからそのまま見守ろうと、まぁ、思ってるわけよ?」
「えっ」
「いやぁ、この前身内じゃない〜みたいなこと言われたからね。それに対する答えを出してから詰め寄ってやろうかと」

ぎゅっと体の中を強く捻られたような痛みがあった、ような気がして少し息をつめる。
最近、恵は家に帰ってこなくなった。年齢的な反抗期というやつらしく、礙之さん曰く誰でもなるものらしい、とは聞いたけれど心配で仕方がない。この間まで一緒に食べていたご飯も、朝起きたらあった姿も、くだらない話をしながら笑いあう横顔も、帰り道にたまに見かけた背中も見なくなってしまった。最近の舌打ちして嫌そうにゆがめられた表情が脳裏にどんどん溜まっていくのがぞっとする。家に帰らなくなって、喧嘩もして、話さなくなって、急に溝ができたみたいに距離があいた。
家にはほとんど寄り付かなくなったことに対して彼は恵と喧嘩した。殴り合いとか怒鳴り合いとかじゃなくて、連絡を入れろとか電話に出ろとかそんなことを話していてヒートアップしただけのなんてことないものだった。はずだ。恵の口から弾みのように漏れ出た「血のつながった家族でもないのに」という言葉で、「そりゃ繋がってないけどさ〜」となんでもないように返す彼よりも、私はまるで喉元に刃物があてられたんじゃないかという恐怖となぜか産まれた焦りと寒気に恵を凝視してしまった。
私に言われたわけじゃない。礙之さん曰く「事実」であることを話されただけなのに、鼓動がどくどくと嫌にはやい。声が反響して、息がうまくできなくて、今吐いているのか吸っているのかもわからなくなって震える足から崩れ落ちた。礙之さんはぎょっとして私をささえて体調なんかを心配してくれたけれど、あの時の恵の表情はさっきまで凝視していたはずなのに、そこから一切見れなかった。怖かった。震えて、なにもできない自分が嫌になった。それでも視線は床に釘付けで、最近私のお節介がすぎてしまってギスギスしてきているのにもしも恵が私に軽蔑や呆れをありありと表した顔をしていたら、と思うと私はその日恵を見れなかった。その日から更に恵とはおしゃべりも、目が合うこともなくなってしまって、あんなに2人だけの姉弟だから仲良くしたいと思っていて、あんなにも2人でいてお父さんがいて、礙之さんもいるのが私の幸せだと思っていたのにと、愕然としている。
頭がぐるぐるして黙ってしまった私を見ながらも話をつづけてくれている彼は、優しいのか優しくないのかは私にはわからない。今の私にとっては触れてくれないのは優しく感じるけれど。

「で、甚爾さんは様子見。あの人自体が地雷になってるっぽいしね。」

急に地雷になって帰ってくるんだもんなぁ、と呟かれた言葉にこの前見た苦々しい顔をしたお父さんが頭をよぎり「しらねぇよ」と声を出した。

「五条悟さんは口出すよ、とひと言もらったけどお好きにって伝えた。俺は師弟子関係に口出す気は無いしね〜?元はあの人の下にいるのが恵くんんの居場所だったわけだし…」

家に帰らない恵は今五条さんに厄介になっているらしい。修行?鍛錬?をしているついでに、と前からそちらに厄介になっているのはしっていたけれど、居場所の意味がわからなくて首を傾げてしまう。呪術師としての恵の居場所が五条さんの元にあるという話だろうか、と聞こうとして、彼の目が遠くを見つめていてごくんとその言葉を飲み込んだ。

「うん、でね?見守り、様子見、口出し。俺たちはこんな感じ。津美紀ちゃんの話を聞いてるとやめて欲しいのは伝わるけど、なんでやめて欲しいの?たぶんそれ言わないと恵くん聞く耳すら持たない気がするんだよなぁ」
「恵は、それを考えたら話を聞いてくれる?」
「まぁ、たぶん?俺の勝手な予想だけど」
「私がどうしたいか…」
「津美紀ちゃんのそれが決まったら盛大に2人で喧嘩でもすりゃ、まー雨降って地固まる、かな?ダメだったらまた一緒に考えよっか」
 
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