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「津美紀ちゃんには、言わない気なんだな」

あ、地雷踏んだな、と甚爾が思ったときには奴の目には火が見えた。

「それなら俺も、そっちの世界の話は聞かなかったことにするよ。今まで言ってくれた話は聞いてないし、知らない。おーわり。はい。じゃ、なにか他の話題〜」
「いや、あの」
「終わり、終わった。おーわり。テレビつけるね」
「あの……」

いつもみたいににっと笑ってみせた奴は話をぶった切る。これ以上つづかせる気すらないようで、テレビをつけだしたのも証明だ。
話を遮られ無理矢理終わりにされた恵が困惑と、いつも見ない育ての親代わりの男の冷たさに怖がっているのを感じながら甚爾は久しぶりにかわく口腔内に舌打ちをひとつ飲み込む。
呪術について呪霊について、こちらの世界についてを流石に話すべきだろうと、たまに恵の鍛練で場を借り人を借りる高専でも話があがり、恵ともすでに話し合っていた甚爾は津美紀が中学にあがるまえに同居しているほぼ幼少期の子供を任せっぱなしにしていた男にさわりだけ話した。本当に、まださわりだけしか話してない。これからもっと深めるはずだったものが、すぐに消された。話したいと自ら言った恵を中心に話していたが、地雷をがっつり踏み抜いたらしく切りあげられて空気が張り詰める。

「津美紀は見えてないし…」
「見えてないから知らせないのか?それなら俺にも知らせなくていいだろ」

言い訳のように発した恵の声は冷たい声に遮られる。甚爾が黙るようにジェスチャーした。これ以上、恵がなにをいってもきかないだろう。
机を挟んで向こうに座る男に、触れてこちらを向かせて話をして納得させる術をもう恵は持たないし、なんなら甚爾は元から持っていない。

「…さっきから俺が逆ギレみたいになってる自覚はある。悪いな恵くん。けど、けどさぁ…………俺はその辺が曲げられないし、気に入らない。わがままだな?わかってる。でもお前らふたりもわがままだぜ?あの子が、津美紀ちゃんがどれだけお前らのことを心配して……怖くて震えてるか、知らないだろ……それを知らないで教えない、教えるは、くそっ……………」

言葉を詰まらせた奴は碌に見てもいなかったテレビから視線をこちらにずらし、怯える恵は視界に入れないようにしながら甚爾の目をみた。
やはり火があがっている。甚爾は眩しく感じながらその火を見つめるしかない。もどかしさも、少しばかり感じる。
恵を視界に入れれないのは罪悪感からだろう。怒鳴ったり怒ったりを滅多にしない男は育ててきた子供が可愛くて仕方がなくて、今自分がやっている「自分の言葉をぶつける」ことすら辛いのだ。
それもわかりながら甚爾は男の火を見つめつづけて、いつもの男が戻るのを待つしか無い。いや、今もいつもの男なのだけれど…いつもの地雷なんてないです見たいな馬鹿な顔した奴を待っている。

「2人が、死ぬかもしれないことをやってる、かもしれないってのを感じとってて……くそっ…俺も津美紀ちゃんも、なんとなくわかってんだぞ?言ってないだけだ、聞かれたくないんじゃないかってさぁ……俺は聞いちゃえばいいって思ったけど、津美紀ちゃんは違ったから、さ……。金曜日夜に鍛練に出たお前らが死んじゃうんじゃないかって、酷い怪我するんじゃないかって心配で、心配で震えながらご飯もろくに食べきれずに一人で寝るのも辛そうで、帰ってくる月曜の朝まで安堵の息すらできなくて…。……はー、くそ、ほんと、お前らなァ、わかってんのかよ………?あんなにいい子の恐怖をずっと増やしてるのは見えないジュレイじゃなくて、お前らふたりの家族なんだよ。わかってるか?なぁ?わかってないだろ。説明するのとしないのじゃ、心配は変わる。見方も気持ちも変わる。知ってると知らないじゃ、見えてなくても、自衛も世界も違う。誰かのためは誰のためにもならない。津美紀ちゃんのためは津美紀ちゃんのためには、ならないんだよ。まぁ、どれもこれも俺の持論なんだけどさ…。津美紀ちゃんのために喋らない恵くんや甚爾さんもわかるけど、俺はわかりたくない。俺は俺のためにしか生きてないから、その生き方に賛同できない。俺の、じゃないな、別に俺は言われなくても気にしないけど……見えない世界に家族3人のうちで1人でいる津美紀ちゃんを手放してやるなよ、なぁ………。」
「お前は言われなくていいのか?」
「俺?俺は伏黒家からは蚊帳の外だよ、甚爾さん。」

この男がすでに伏黒家の隅から隅まで浸透しているのに、いつまでも予防線みたいななにかが隔たっていて、甚爾は伸ばすつもりのなかった腕を動かし奴の頬を撫でる。不思議そうに、手を受け入れている奴はどこまでいっても誰かのためは誰のためにもならないを持論に、こっちの世界を知らない津美紀のために、と持論とは反対の事を宣う。わかっていながら、宣っている。
どうにかして目前の男を掻き抱いてやりたい、という気持ちをごまかしかき消すように甚爾は強めに頬をつねってやった。
 
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